第56話


 翌朝。よそよそしい二人を見てピンと来た使用人たちによってアンとギルバートは昨夜の出来事を吐かされた。



「「「そんなプロポーズはあり得ません!!!」」」



 そう声を揃える使用人たちへ、アンは顔を赤らめ「……昨日のプロポーズが、嬉しかったんです。」と告げる。アンの照れ笑いに陥落したのは、勿論使用人たちだけではない。






◇◇◇◇



 ジェフリーの妻セレナは、久しぶりに王城を訪れていた。舞踏会や祝賀会が催される、公の場所ではない。王族たちだけが入れるプライベートスペースだ。第二王子サイモンの母である側妃殿下と姉妹であるセレナの母に連れられ、サイモンが開いたお茶会に来ていた。



 参加しているのは、ルイス、サイモン、セレナ、そしてセレナの母だけだ。名目上、お茶会と銘打っているが実際は亡くなったサイモンの母を偲ぶ会であった。側妃の遺品を漸く整理する気になったサイモンが、母親と関係のあった者だけを招待していた。



 セレナの母は隣のテーブルに並べられた遺品を手に取り、思い出話を語っている。他の三名はテーブルに着き、お茶を飲みながら、セレナの母の話をぼんやりと聞いていた。



「……セレナの母上は変わらないな。」



「ええ。」



 ルイスの言葉にセレナは苦笑いを見せた。セレナの母は、ルイスとサイモンに顔を合わせるなり「ちゃんとご飯は食べてるの?!」と王族に対してとは到底思えないような言葉を投げつけた。セレナの母は、一度たりとも二人を王族扱いしたことはない。大事な甥っ子として可愛がっているのだ……甥っ子が成人を過ぎた今でも。



「革命派もかなり縮小したと耳にしましたわ。」



「ああ。サイモンが頑張っているからな。」



 サイモンは何とも言えない表情を見せた。一時期でも革命派に所属し、多方面に迷惑を掛けていたことを悔いていることがセレナにも伝わった……が。



「未遂とは言えアン様が危ない目にあったんですもの。頑張るのは当たり前ですわ。」



 容赦ない言葉を浴びせギロリと睨みつける従姉に、ルイスもサイモンも背筋を凍らせた。



「と、ところでアン殿と言えば……。」



 わざとらしく話題を変えるサイモンは、懐から一通の招待状を出した。隣のルイスも「ああ。」と頷き、同じように懐から招待状を出した。二人とも今日の茶会で話題にしようと思っていたようだ。


 セレナは招待状を見た途端、表情を緩ませ「こんなに楽しみな日はありませんわ!」とうっとりと目を閉じた。隣のテーブルで、側妃の遺品を見ていたセレナの母は「また始まったの?」と呆れ顔だ。王子二人は、毎日指折り数えて楽しみにしているであろう従姉の様子が目に浮かんだ。

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