第55話


※ 更新が遅くなり申し訳ありません!引き続きお楽しみいただければ幸いです。





◇◇◇◇




 いつも元気なアンの涙を見て、ギルバートはわたわたと慌ててポケットから綺麗なハンカチを取り出し、丁寧にそれを拭った。



 ギルバートの慌てた表情や彼らしいパリッとした美しいハンカチにアンの涙はピタリと止まり、思わず笑みを溢す。それを見たギルバートが怪訝そうに口を開いた。



「……アン?」



「ふふっ。私、甘やかされているなぁって思って。」



「婚約者を甘やかすのは当然だ。」



 真面目な調子で答えるギルバートにアンはまた笑みを溢した。アンはギルバートに重ねられた手を握り直し、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。




「……確かに祝賀会で悲しくなるような言葉を耳にしました。」



「アン……。」



 まるでギルバートが不躾な言葉を浴びたような悲壮な表情となったのを見て、アンは首を振った。そんな顔にさせたい訳ではないのだから。



「私はギルバートさんに守ってもらってばかりで、このまま婚約者で良いのかなとも思いました……だけど。」




 ギルバートの瞳が不安で揺れる。アンは繋いだ手を痛くなるほど強く握り締めた。



「やっぱり婚約者でいてほしいのは、甘やかしてほしいのは、ギルバートさんだけなんです。」




「……っ、ああ。」




「だからギルバートさんの婚約者でいられるように頑張りたいって宣言しようと、ギルバートさんの部屋に行こうとしていたんです。」



 それで部屋から出てきたのかと、ギルバートは納得する。アンはにっこりと笑い、言葉を続けた。




「聖女になった時に私が話した望みは変わらないけど、実は一つ追加されたんです。」




「……追加?」




「はい。家族三人で穏やかに暮らしたい、という望みだけでは無くて……。」



 頬を染め、耳元で小さく囁かれたアンの望みにギルバートは心底嬉しそうに頷き、アンの唇に彼の唇が優しく重ねられた。






 アンの望みを大切にしてくれる人。



 アンの意見に耳を傾けてくれる人。



 ピンチになるといつも助けてくれる人。



 デート先やアンに似合うドレスを懸命に考えてくれる人。



 アンの心を癒す言葉をくれる人。








 アンのパンを食べてくれる人。





 きっと、出会った頃からずっとギルバートに惹かれていたのだろう。

 





『ずっとギルバートさんの隣にいられますように。』



 アンの望みは、いつだってギルバートが叶えてくれる。




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