第50話
「聖女様!楽しんできてね!」
「「「ギルバート様、アン様、いってらっしゃいませ。」」」
アベールとギルバートの屋敷の使用人たちに見送られ、アンとギルバートを乗せた馬車は出発した。前回の舞踏会も緊張したが、今回はまた別の緊張がある。自分が注目される瞬間があるというのは、手が震えるほど怖い。
「アン?」
「はい。」
「あまり気負わないように。今日は確かにアンへの褒賞を与える時間があるが、アンだけではない。」
ギルバートによると、今回サイモン殿下の治療の為に尽力した、神殿と魔術協会にも褒賞があるらしい。表彰の場では、神官長のグレッグと魔術協会長のロナルドも一緒にいる、ということだ。
「俺も近くにいるから心配しなくていい。」
「ギルバートさん……。」
心強い言葉を掛けられ、強張っていたアンの表情がふにゃり、と緩む。
「緊張はしています。だけど……。」
アンはちらりと自分のドレスを見る。ギルバートとアベールが、言い争いしながら完成したドレスだ。聖女らしいシルバーの布地には、ギルバートの色である、アッシュグレーの刺繍が入れられている。
「ギルバートさんが、考えてくれたドレスがあるので、頑張れそうです。」
ふふふ、と嬉しそうに笑うアンの手に、ギルバートの手が触れる。
「本当は抱きしめたいが……。」
せっかく可愛く着飾っているのに崩れたら大変だから、と耳元で囁かれ、アンは顔を熱くした。祝賀会への不安は一瞬でかき消された。代わりに、胸に溢れる、ギルバートを愛しく思う気持ちに、アンは浸っていた。
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