第49話



 祝賀会当日。




「「「アン様。お帰りなさいませ。」」」




「へ?」




 前回同様、身支度の為にギルバートの屋敷にやって来たアンは、ギルバートの使用人たちにこう迎えられ戸惑いを隠せない。




「アン様は、ギルバート様の婚約者様ですからね。こちらもアン様のお家でございます。」



「そ、そんな。」




 厚かましいことを思えない、そう心が叫んでいたが。




「ああ。そうだな。アンの家は勿論ご両親のいるあの、ねこのパン屋だが、こちらもアンの家だと思ってくれると嬉しい。」




「ギ、ギルバートさん……。」




 当たり前のことを告げるように、さらりと伝えるギルバートに、アンは情けない声で名前を呼ぶしかなかった。





◇◇◇◇




「聖女様~!!」




 前回と同じく、ギルバートの隣の部屋に通されたアンを待ち構えていたのはアベールだった。





「最終調整したかったから、無理言って来させて貰ったのよ~!そ・れ・に、聖女様に会いたかったの~うふふ。」




「ありがとうございます!心強いです。」



 素直に喜ぶアンを、ギルバートは複雑そうに見ていた。侍女たちが「最終調整の前に、先にアン様にドレスを着ていただかなければ。殿方は外でお待ちくださいませ。」と、ギルバートもアベールもポイポイと部屋に出してしまう。




「「「さぁ!アン様!磨きに磨かせて頂きますわよ!」」」





「お、お手柔らかにお願いします……。」




 腕まくりした侍女たちに、若干怯えながら、アンはお風呂へ担ぎ込まれてしまった。





◇◇◇◇




 お風呂で隅々まで磨かれ、マッサージとトリートメントの後に、ドレスを着せられ、メイクを施される。既にへとへとのアンだが、アベールが真剣に最終のチェックをしているので気が抜けない。




「よ~し!これでOKよ!あーん!聖女様、す……。」



「アベールさん。感想はちょっと待ってください。」



 アベールが、アンの可愛さにくねくねしながら、誉め言葉を掛けようとしたのをアンは制止した。



「ごめんなさい。だけど、最初の感想は……。」



 頬を染めるアンを見て、アベールも侍女たちもピンときた。侍女の一人がぱたぱたと慌てて退室すると、すぐにギルバートを連れてきた。




「ギルバートさん。」




「アン……。とても可愛い。よく似合っている。」




 ぱぁっと顔を輝かせるアンを見て、ギルバートもまた嬉しさが込み上げる。前回、最初の誉め言葉をジェフリーに取られてしまった情けない自分を責めることも無く、今回最初の誉め言葉を恐らく楽しみにしてくれたであろう婚約者が可愛くて可愛くて仕方がない。



 そして、そんな二人の様子を、アベールも使用人たちもまた幸せそうに見守っていた。





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