第46話



 祝賀会に出席することが決まり、ギルバートがまたドレスを贈ると言った。アンは前回ギルバートが贈ってくれたレモンイエローのドレスを気に入っているから、それが良いと訴えたが、それは貴族社会の中では許されないらしい。



 この日、アンはギルバートと、王都一と言われるデザイナーズショップを訪れていた。





「まあ!貴女が噂の聖女様ですね!」




 この店の社長だと紹介された女装家アベールが、興奮気味にアンの両手を握った……すぐにギルバートがアベールの手を払ったが。





「アンと申します……あの、噂というのは?」





「勿論、鬼の監察官に溺愛されている、という噂ですわ!」




 アベールは無い胸を張り、得意げにそう言った。ギルバートは苦々しく、アベールをきつく睨んだ。




「余計な事言うな。」



「何言ってるのよ、あんな独占欲たっぷりのドレス作らせといて。デザイナーの間では、今でも貴方の溺愛っぷりは噂のタネよ。……ってあら、聖女様ったら初心なのね。」




 顔を真っ赤にしているアンを見て、アベールは揶揄うように赤い頬を突いた……勿論、またギルバートがアベールの手を払い落としたが。




「んもう!ほんと独占欲の塊ね!」



 アベールは、ぷりぷりと怒りながら採寸道具を取りに二人から少し離れた。アンはその隙に、そっぽを向いたギルバートの耳元で囁いた。






「……ギルバートさん。あのレモンイエローのドレス、私とっても嬉しかったんです。」




 ギルバートから初めて贈られた、ギルバートの想いが詰まったドレスが嬉しくない訳がない。もし、許されるなら何処かでまた着たいとおねだりすれば、ギルバートはそっぽを向いたまま頷いた。






◇◇◇◇






「あーん!聖女様の晴れ舞台のドレスを作れるなんて幸せだわ!!」




 アンの採寸を終えたアベールは体をくねらせながら、喜びに打ち震えていた。




「さぁ!布地を決めましょ!聖女様だから、やっぱり白系よね!」




 アベールが取り出した布地は、それぞれ色合いが違う白系統のものだった。その美しさに、アンは思わず目を奪われていたが。





「いや、白は駄目だ。」




 ギルバートはハッキリとした口調でそう言った。




「はぁぁぁぁ!?何でよ!聖女様イコール白でしょ!!」




 アベールはぎゃあぎゃあと騒いでいたが、ギルバートは決して譲らなかった。










「アンが白いドレスを着るのは、俺との結婚式だけだ。」




 恥ずかしげもなく、言って退けるギルバートに対して、アンの心はもう限界寸前だった。顔どころか全身真っ赤にしたアンは立っているのがやっとだった。そんな二人をアベールはにやにやと見ていた。






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