第42話
「アン。大丈夫か?」
ギルバートが心配そうに訊ねる。ルイスとサイモンの話が終わった後、サイモンの治療を依頼された。これまで、アンが対応してきたどの患者よりも、病が進行していたサイモンの治療は手こずった。だが、時間を掛けて、無事治療は成功した。帰りの馬車の中で、ギルバートはアンの体調をしきりに心配していた。
「ふふふ。大丈夫ですよ。」
何度も心配そうに訊ねるギルバートに対して、アンは思わず笑みが零れた。ギルバートは、ここの所、どんどん過保護になっている気がするが、アンはそれが嬉しかった。
「そうか。」
あまり納得していない様子のギルバートに、アンは少しだけ甘えたくなった。
「ギルバートさん。」
「ん?」
「デ……お出かけの予定、立てたいです。」
どうしてだろう。この前は「デートをしてみたいです!」なんて、すんなり言えたのに。今は『デート』という言葉が何だか恥ずかしくて、つい『お出かけ』という言葉で誤魔化してしまった。
「ああ。」
ふっと目を細めたギルバートの顔を見て、胸が高鳴る。ああ、そうか。私は、あの頃よりずっとこの人が好きになっているんだーーーそのことに気付いたアンは、照れくさくて、恥ずかしくて、だけどふわふわと幸せに包まれていた。
◇◇◇◇
数日後。
「うーん……何にしようかなぁ。」
自宅のリビングで頭を悩ませるアンを、母親のスーザンが微笑ましそうに見ていた。
「まだ、悩んでいるの?」
「うん……。」
舞踏会の準備と、サイモンの治療のことでバタバタしていたアンは、しばらくギルバートにパンを食べてもらえていなかった。そこで、アンが作ったパンを食べてもらえるようなお出かけがしたい!とおねだりした。すると、ギルバートが、綺麗な湖まで馬に遠乗りしないかと提案してくれた。
せっかくだから、パンだけでなく、おかずも作ってお弁当を持っていきたいと思っている。だが、なかなかメニューが決まらなくて、数日間唸っているのだ。
「ねぇ、アン?」
「なあに?」
「好きな人のために、パンを作るのは楽しいでしょう。」
揶揄うように、にやりと笑ったスーザンに、アンは顔を真っ赤にした。スーザンとの約束ーーー半年間の婚約期間で互いに愛し合えるか見極めることーーー約束の半年まで、残り少しになっているが、もう十分ね、とスーザンは心の中で笑った。
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