第39話
ルイスに連れられ、アンとギルバートはサイモンの私室に通された。あまり多人数で行くのは、サイモンの負担になるだろうということで、ジェフリー達は別室で待機することとなった。
サイモンは清潔なベッドで寝かされているが、息を切らし汗を浮かべている。眉間に皺を寄せ、痛みに耐えていることがまざまざと伝わってくる。アンは、母親のスーザンが苦しんでいる様子を思い出し、胸が痛くなり、つい俯いてしまう。
(お母さんは、もう治ったんだから。大丈夫、大丈夫。)
自分の気持ちを落ち着けるように、心で繰り返す。
(サイモン殿下も、早く治したい。)
アンが顔を上げると、ギルバートと、ルイスが背中を押すように頷いた。アンはサイモンに近付き、手を取ろうとする。しかし。
「や、止めてくれ、聖女殿・・・・・・。」
掠れた小さな声で、唸るようにサイモンが言った。アンは目を丸くした。病の進行がここまで進んでいたら、話すことも難しい。サイモンが声を出すなんて思わなかった・・・・・・つまり、それだけ治療を拒否したい理由がある、ということだ。ギルバートもそれに気付いたのだろう。使用人の一人に「すまないが、ロナルドを呼んできてくれないか。」と声を掛けた。
程無くして、ロナルドが部屋に来ると、魔力を使って一時的に症状を抑える。魔術協会のトップであるロナルドの魔力は強く、サイモンが話せる程度には症状が緩和した・・・・・・勿論一時的ではあるが。サイモンは、ベッドに横たわったまま、話し始めた。
◇◇◇◇
サイモンの母である側妃は、今サイモンを蝕んでいる病に罹患し、儚くなってしまった。だが、儚くなってしまったのには、病だけではなく、ある理由があった。
側妃が罹患した当時、アンは聖女では無かったが、他の聖女達はおり、治療は可能だった筈だ。特に王族であれば、健康管理に厳しく、早い内に罹患したことに気付いただろうし、そうなれば聖女による治療も優先されるに違いない。しかし、サイモンの母はそうされることは無かった。
これは、ルイスの母である正妃が、裏で手を回していたせいだった。正妃は、国王陛下が溺愛する側妃を疎ましく思っていた。そこで、側妃が適切な治療を受けられないように、使用人や治療士を買収した。発症した時、国王陛下がたまたま隣国に行っていたこともあり、気付いた時にはサイモンの母は帰らぬ人となってしまった。
「俺は気付かなかった。正妃がこんな恐ろしいことをしていることに。そして、母上が亡くなってからやっとその事に気付いた時、恨んだ。正妃だけじゃない。陛下のことも・・・・・・兄上のことも。」
ルイスの表情からは、悲しみか、怒りか、懺悔か・・・・・・心情は読み取れない。
「それで、革命派に入った・・・・・・王家が痛い目を見ればいい、その思いだけだった。」
自分が罹患したと分かった時、もうどうでも良くなった、このまま死なせてほしい、サイモンは悲しい瞳でそう願った。
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