第38話




「あの~宜しいですか?」



 暫く続いた静寂を破ったのは、神官長グレッグだった。





「神殿の代表として、アンさんと同じ意見です。神に仕える者として、病を治療することに条件を付けることは容認出来ません。」




 全員がグレッグに注目した。ロナルドが頷き、口を開いた。





「そうですね。魔術協会の代表としても、同じです。」





「ギルバート様。王宮、神殿、魔術協会の三つは、対等の関係です。そのうち二つは、殿下の意見に反対だと伝えれば、殿下も考えて下さるのでは。」



 グレッグの提案に、ギルバートは頭を下げた。





「・・・・・・すまない。二人とも感謝する。」





「では、今から行きましょうか。治療するなら早い方が良いでしょう。」



 ジェフリーの促しに全員が立ち上がった。





◇◇◇◇






 アン達は、暫く待たされるだろう、と思っていたが、ルイスにはすぐ会うことが出来た。王宮の一室に通されると、ルイスは嬉しそうに迎えてくれた、のだが。






「・・・・・・そう。それが、神殿と魔術協会の意見という訳か。」




 サイモン殿下の治療に、条件を付けたくないーーーそう伝えた途端、ルイスの声は低くなり、部屋の温度が下がったような気がした。





(こ、こわい・・・・・・。)





 前の日に舞踏会で会っているとはいえ、王族に会うのは相当緊張する。そして相手が怒っているのであれば、それは尚更だ。




 そんなアンの心情に気付いたのだろう。隣にいるギルバートが、ちらりとアンを見て頷いてくれる。アンはそれだけで、心強かった。




「殿下。申し訳ありません。」





「・・・・・・いや。神殿とも、魔術協会とも、対立はしたくないからな。それに。」




 ルイスは、ギルバートを見据えた。





「・・・・・・お前とも、仲間割れしたくない。」




 ギルバートは固くしていた身体が、少しだけ弛んだのを感じた。





「殿下、ありがとうございます。」




「それにしても。」




 ルイスは、アンへ視線を向けた。






「一番、恐ろしいのは聖女殿だな。」




 神殿も、魔術協会も、そして鬼の監察官も、彼女一人だけで大きな影響を与えている。キョトンとするアンに、ギルバートは疲れた顔で笑った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る