第37話


 暫くすると、ジェフリー、神官長のグレッグ、魔術協会長のロナルドが、ギルバートの屋敷の応接室に集まった。





「急にすまない。実は、昨日ルイス殿下から相談があった。」




 アンだけでなく、グレッグとロナルドにも緊張の色が走る。





「・・・・・・サイモン第二王子殿下が病に罹患しているらしい。アンの母上やデニスが罹患していた、不治の病だ。」




 アンは息を呑んだ。動悸が急に激しくなるのを感じる。






「・・・・・・っ!それなら、早く行かないと!」




 あの病は進行が早く、あっという間に起き上がれなくなり、すぐ死の淵に立たされる。一刻も早く治すべきだ。顔面蒼白になったアンが立ち上がるが、ギルバートがそれを制止した。





「アンの気持ちはよく分かる。だが、ルイス殿下からの相談は、少し違うんだ。」




 ギルバートは難しい顔をして、話し始めた。






◇◇◇◇






 ルイス第一王子とサイモン第二王子は、母親が違う。ルイスは正妃の子であり、サイモンは側妃の子だ。




 そして、サイモンの母は、随分前に例の病に罹患し、そのまま儚くなってしまった。この病には、遺伝要因もある為、家族は定期的に検査を受ける事になる。感染に早く気付く事で、発症前に治療できるからだ。




「サイモン殿下は、検査をずっと拒否していたらしい。」




「なっ!何故ですか?!」




 アンは声を上げた。患者の家族が検査を受けないなんて、母を看ていたアンには信じられないことだった。




「理由は分からない。」



 ギルバートは首を振った。ここまでは、王宮にも出入りしている、グレッグもロナルドも知っている経緯だったのだろう。口を挟まず、静かに聞いていた。






「ここからが本題なのだが、ルイス殿下から言われたのは・・・・・・。」





 ギルバートは言葉を切った。仕事人間のギルバートが仕事の話をここまで言いづらそうにしているなんて、見た事がない。




「先輩?」




「・・・・・・やはり、アンに聞かせるべきでは無いのではないか。」




 ギルバートは、ジェフリーを縋るように見た。だが、ジェフリーは首を振った。




「後から知る方が傷付くと思いますよ。」



 アンは何を言われるのか恐ろしくなった。ギルバートは観念したように話し始めた。




「・・・・・・アン。嫌な思いをする事を今から言う。すまない。」




「は、はい。」









「ルイス殿下は、治療と引き換えに、革命派を一掃する方法を考えるよう仰った。」





「そ、そんな!」



 アンは激しく動揺した。あの病は、患者がとても苦しむものだ。自分で身体を動かせず、食事も摂れず、痛みに耐え、ただ死を待つようなものだ。それを治療することに、条件を付けるなんて、アンは許せなかった。





「確かに、革命派は良くないと思います・・・・・・だけど!それと、治療することとは別だと思います!」



 革命派のせいで、アンは拐われてしまった。実行犯だったデニスもその娘のレイも、病に苦しみながら助かる方法を必死に探し革命派に騙されてしまった。そしてデニス達のような者は革命派には多くいると言う。革命派は許されない存在だ、そう思うけれど、その革命派に属するサイモンを助けることとは別の話だ。思わず声を荒げるアンを、全員が見ていた。





「ああ。アンの言う通りだ。」



 ギルバートは苦しそうにそう答えた。ギルバートは、アンが今のように傷付き、動揺することが分かっていたから、言いたくなかったのだ。ギルバートの気持ちに気付いたアンは、言葉を失ってしまった。 

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