第35話



(目に毒だ・・・)




 またしても使用人のお節介だろう。就寝前に侍女に連れて来られたアンを、ギルバートは直視出来なかった。



 いつもアップにしている栗色の髪は、下ろされている。入浴後で頬が赤く染められており、侍女達が用意したネグリジェは、胸元が心許ない。そのどれもがギルバートの目には毒だった。



 ギルバートは、自分の上着をアンに掛ける。




「・・・風呂上がりに体を冷やしたらいけない。」



 アンは心底嬉そうにその上着を羽織るのを見ていると、ギルバートはまた自分の欲と戦わなくてはならなくなった。




「ふふ、ありがとうございます。」




「・・・っ、ああ。」





「ギルバートさん、お仕事邪魔してしまってごめんなさい。・・・寝る前に会いたくなってしまって。」



 ふんわりと笑うアンを見て、ギルバートは思わず触れたくなる衝動を必死に堪えた。


 アンは、そんなギルバートの顔を見て、やはり邪魔していると考えたのだろう。慌ててお茶を飲み終わろうとする様子を見て、ギルバートは制止した。




「アン。慌てなくていい。」




「でも・・・。」




「俺もアンに会いたかった。」




「ギルバートさん。」


 安心したように笑うアンの純粋さに、ギルバートは改めて心配になる。



「だけど、寝る前に俺以外の男の部屋には行かないように。」



 ぽかんとしているアンは、徐々に意味に気付いたようで、顔を赤くした。



「は、はい!行きません!」



 これくらいなら許されるだろう、と頭を撫でると、アンは照れ笑いを浮かべる。撫で終わると手を繋ぐ。またアンが嬉そうに微笑むのを見て、ギルバートはホッとした。




「あ、あの、ギルバートさん。」


 アンが顔を固くして、話し始めた。






「今日、ルイス殿下と話した後、何だか様子が違ったから・・・大丈夫ですか?」



 ギルバートは目をぱちくりさせた後、口許を緩めた。



「ああ。ちょっと仕事のことでな。だけど・・・。」




 とうとうギルバートは、欲に負けた。アンを引き寄せ、額に唇を寄せた。




「なっ・・・!」



 言葉を失うアンを、ギルバートは目を細めて見つめる。




「今は、婚約者との時間を楽しみたい。」



「う・・・。」



 甘い言葉に、恥ずかしそうにしているアンを、ギルバートは思う存分楽しんだ。



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