第30話
馬車降り場はごった返していた。ジェフリー達とは、会場で落ち合おうと決めていたらしい。アンはギルバートと二人で会場へ向かった。
以前、聖女登録に来た時は一般人にも開放されている区域だけしか入れなかった。今日は前回とは違う、貴族だけが入ることを許されている区域を進む。美しく飾られた王城内を、ギルバートにエスコートされ歩く。素晴らしい装飾に目が奪われそうになるが、キョロキョロするのはマナー違反である。アンは堪えながら、真っ直ぐ前を向いて歩いた。
(やっぱり、見られている・・・)
平民ながら、類い稀なる聖女の力が現れ、侯爵家であるギルバートの婚約者となったアンは、噂の的だった。
好奇心・羨望・嫉妬・侮蔑・・・様々な視線に晒されていることを、アンは肌で感じた。思わず俯きたくなるが、心を奮い立たせながら前を向いた。
「アン。」
見上げると、ギルバートが気遣うような瞳で見つめている。
「大丈夫だ。」
ギルバートが周辺の貴族を一瞥すると、鬼の能面顔に恐れをなしたように貴族達はパッと視線を逸らした。
(助かった・・・だけど失礼な人たちだわ!ギルバートさんは、こんなに・・・)
「アン?」
表情に出ていたのだろうか。ギルバートが問いかけたが、アンはふるふると首を振った。ギルバートは、大きく頷くとまた前を向いた。
(・・・こんなに、素敵な人なのに、なんて。)
そんな風に思うなんて、まるで本物の恋人のようだ。アンは頬を染め、隣のギルバートをチラリと盗み見た。
◇◇◇
会場にて。
「先輩。アンちゃん。」
ジェフリーとセレナと無事落ち合うことが出来、人が少ない隅の方で一息つく。
「アン様、大丈夫でしたか?」
道中の、不躾な視線を心配したセレナがこっそり声を掛けてくれる。
「はい。ギルバートさんがいてくれたので。」
アンの少し照れた表情を見て、セレナも嬉しそうに頷いた。ジェフリーはニヤリと笑い、ギルバートを見るが、ギルバートは素知らぬ顔だ。
和やかな空気の中、このまま無事に終えられたら、とアンが願ったその時。
「ああ。ギルバート、こんな場所にいたのか。」
要注意人物、ルイス第一王子が、朗らかな笑顔を浮かべ、近付いてきた。
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