第31話
「おお、貴女が噂の聖女殿だな。」
「はい。アンと申します。」
「固くならなくとも良い。こちらこそ、民の為に尽力してくれているアン殿に礼をしたい。感謝している。」
アンがレッスン通りの礼をすると、ルイスは笑ってそう言った。
「い、いえ。」
「聖女としての力が素晴らしいだけでなく、こんなに可愛らしいとはな。」
ルイスが近付き、アンの方に手を伸ばす。この場合、どのような反応をしたら良いのだろう。アンがドギマギしていると。
「アンは、私の婚約者となりました。あまり、近付かないで下さい。」
ギルバートが、アンとルイスの間に身体を割り込ませ、王族相手とは思えない牽制をした。
ルイスは、目をぱちくりとさせた後、笑い声を上げた。
「すまない。揶揄い過ぎたな。」
「殿下。」
「ギルバートが可愛がっていないようなら横取りしようかと思っただけだ。だが、ギルバートの愛は一目瞭然だな。こんなドレスまで贈っているのだから。」
ルイスはにやにやと笑い、ジェフリーとセレナは頷いているが、ギルバートは、そっぽを向いた。
アンは、ルイスの言葉が理解できなかった。ギルバートから贈られたドレスはレモンイエローを基調としたものだ。可愛らしいデザインで気に入ってはいるが、これがギルバートの愛とどう繋がるのか分からなかった。
「ルイス殿下、お久しぶりでございます。」
「ああ。セレナか。久しいな。」
「サイモン殿下が見当たりませんが、本日はいらっしゃらないのですか?」
セレナは、アンを守る気満々だ。敵の居場所を確認する為、ルイスに尋ねた。
「あ、ああ。今日は欠席だ。楽しんでいる所、申し訳ないが、ギルバート、ジェフリー、少し来てくれ。」
ルイスは、急に二人を連れ、場所を移動した。ギルバートが気遣うようにアンを見たが、アンは(大丈夫!)と気持ちを込めて、にこりと笑った。
「アン様。休憩しましょう。」
セレナは給仕から果実水を受け取り、アンに渡した。果実水を一口飲むと、アンは緊張から少し解放された。
「あ、あのセレナ様。先程のルイス殿下のお話なのですが。」
「ドレスの事ですわね。ふふふ、私もギルバート様の愛が篭っていると感じました。他の貴族も同じだと思いますわ。」
セレナは、説明を続けた。
「貴族は、愛する者へ自分の色が入ったドレスや装飾品を贈るのです。」
「自分の色?」
「はい。ギルバート様の場合、髪と瞳の色、薄めのアッシュグレーです。それがドレスの刺繍にも、アクセサリーにも隈無く使われています。これが殿方が、自分のものだ、と示すための愛の証なのですよ。」
レモンイエローを基調としたのは、アンの明るいイメージからだろう、とセレナは付け加えた。アンは顔を赤く染めた。こんなにも気持ちを込めて、ドレスを準備してくれたギルバートを思うと胸が暖かくなった。
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