第27話
舞踏会当日。
「うわぁ・・・。」
ギルバートが家まで迎えてくれ、アンはギルバートの屋敷へ来ていた。広々とした庭や、美しい外装に、アンは思わず目を輝かせ声を上げた。
舞踏会の身支度を行うには、アンの家よりギルバートの屋敷に来た方が使用人もいるのでスムーズということらしい。ギルバートに案内され、緊張しながら足を進めた。
「ギルバートさん、あの、ご家族の方は・・・?」
「ん?ああ、ここには俺しか住んでいないんだ。」
「え?」
ギルバートの実家、スペンサー家は王都から馬車で数日掛かる辺境近くに領地がある。この屋敷は、ギルバート個人で所有している物件だと言う。ギルバートの両親や兄夫婦は、今回の舞踏会は距離の都合もあり欠席する、と聞き、アンは少しだけホッとした。いつかは会わなければならないと分かってはいるが、今日は舞踏会の不安だけでいっぱいいっぱいだった。
それにしても、こんな広々とした場所に、ギルバートは一人きりで住んでいるというのか。ねこのパン屋が、この敷地内に何軒建つだろう、そんな切ない計算を脳内で始めたアンを見て、ギルバートは目を僅かに細めた。
「寂しくはない。」
「本当に?」
「いつかは、アンが来てくれるからな。」
「・・・!」
ギルバートは、表情も変えずに、真面目腐った様子で伝えてくるので、アンは余計に言葉を失ってしまう。何か、何か伝えようと、口をぱくぱくさせていると、身支度担当の侍女達に「アン様!準備を始めましょう!」と連れ去られ、何も言えないままギルバートと離されてしまった。
◇◇◇
「アン様!お美しいです!!」
アンは、隅々まで磨かれ、マッサージやトリートメントを丁寧にされた。そして、訳も分からぬままドレスを着付けられ、見たことも無いメイク道具で化粧され、髪型を整えられた。アンにとってはどれも初めての体験だった。
「あ、ありがとうございます・・・。」
ヘロヘロになりながら鏡を見ると、確かに自分ではないように見える。このようなドレスやメイクに慣れていないアンは落ち着かない気持ちだった。
アンを着飾ってくれた侍女達はみんな親切で、アンを丁寧に扱ってくれた。侯爵家の使用人は、男爵家や子爵家出身の者が殆どだと聞いていた。自分より身分の低い、平民のアンへどのような反応をするのか、アンは内心恐々していたが、そんな心配は杞憂だった。
「あの、皆さん、親切にしていただいてありがとうございます。」
アンがぺこり、と頭を下げると、侍女達は微笑んだ。
「いいえ。私達は、ギルバート様の大事な婚約者様を着飾ることが出来て嬉しいのです。アン様がこちらに住まわれて、日々の身支度のお手伝いをさせていただくのが待ち遠しいです。」
「は、はい。」
慌ただしい準備の中で、頭の隅に追いやっていた先程のギルバート言葉が思い出され、アンは頬を染めた。どんな顔をして、ギルバートに会ったら良いのか、鼓動が高鳴っていくのを感じている所で、ギルバートがやってきた。
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