第26話
いつものように監察官面接に訪れたアンは、ギルバートから見ただけで高価なものだと分かる、封筒を手渡される。中身を見るのも躊躇するほどだ。ジェフリーも困った顔で封筒を見ている。
「えっと、これは・・・。」
「招待状だ。・・・今度、王家主催の舞踏会が予定されている。それにアンも招待されている。」
「ほ、ほう・・・。」
思わず戸惑いの声を上げるアンと、眉間の皺がいつもより深くなっているギルバート。聖女であり、侯爵家のギルバートの婚約者でもあるアンには、半ば強制的に王家の行事に参加することとなる。
「悪い。」
「い、いえ!確かに不安ではありますが、せっかくレッスンも受けさせて貰っていますし、頑張りますよ!」
意気込むアンを見て、漸くギルバートの眉間の皺は薄くなる。
「きちんとフォローするから安心してほしい。」
表情はいつもの鬼の能面顔だが、ギルバートの言葉を聞き、アンは顔を綻ばせた。
「ありがとうございます!ぜひお願いします。」
「アンちゃん、俺も妻と行くからさ、心配しないで。」
「ジェフリーさんの奥さま!」
会えるの楽しみだなぁ、とアンは笑みを溢す。初めての社交に、不安も大きいが味方がいることで少しずつ安心できた。
「ドレスや装飾品は、準備するから。」
「う・・・。」
自分で準備します!と言いたかったが、言えない自分が心苦しかった。きっと自分で用意しようものなら、パン屋の売上が何ヵ月分も吹き飛んでしまうだろう。「お願いします。」と頭を下げると、ギルバートは首を振った。
「俺が贈りたいんだ。贈らせてくれ。」
ギルバートの口許が緩み、アンは頬を染めた。ジェフリーが小さく「・・・先輩が笑ってる」と目を剥いていることには二人とも気付いていなかった。
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