第25話




 ねこカフェからの帰り道。



 思う存分、猫に癒されたアンは機嫌良く歩いていた。



「ギルバートさん、どうしてデートにねこカフェを選んでくれたんですか?」



「あー・・・。」



 隣を歩くギルバートは決まり悪そうにそっぽを向き、頬を掻いた。



「いつも、帰り道にアンは猫を追いかけているだろう。それで猫が好きだと思ったんだ。」


 場所は、ジェフリーが探してくれたんだ、とギルバートは付け加えた。




「う・・・ご、ごめんなさい。」



 思い返すと、確かにいつも猫を追い掛けていた。よく考えれば、それは婚約者としては良くない行動だった。せっかく、ギルバートによって敏腕教師が雇われ、淑女教育も受けているのに、全く成長が無いと思われたかもしれない。そんな思いが駆け巡り、アンは気まずさを覚えた。






「・・・何故謝る?」



「そ、その、せっかくレッスンも受けさせて貰っているのに、お淑やかな行動ではなかったな、と思って。」



 しゅん、と俯いたアンを、ギルバートは怪訝そうに見た。そして、ぎこちなく、遠慮がちに手を握られる。





「ギルバートさん?」



 問いかけても、ギルバートは前を向いたままで、視線は合わない。




「・・・レッスンを受けないといけなくなったのは俺のせいだ。窮屈な思いをさせて申し訳ない。」




「そんな!窮屈な思いなんて・・・。」



 やはり視線は合わない。ギルバートは首を振った。




「淑女らしさが求められる場所に、同行して貰うこともあるだろう。だけど、それ以外の場所ではアンらしくいてほしい。」




「ギルバートさん・・・。」





「あー・・・アンは、アンらしく伸び伸びとしている方が、その、良いと思っている。」



 やっぱりギルバートはこちらを向いてはくれない。だが、アンから見えるギルバートの形の良い耳の端が僅かに赤くなっていることをアンは見逃さなかった。ギルバートの言葉に、アンは心踊らせた。




「じゃあ、思う存分、伸び伸びします!」




 アンが笑顔で宣言すると、固い表情のギルバートの頬が緩んだのが分かった。



「・・・また、出掛けるか。」



「はい!」



 二人の手は、家に着くまで繋がれたままだった。そのことがアンの心をぽかぽかと暖めた。

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