第24話
みゃあ、みゃあ、と心を擽る声が聞こえる。
「ギルバートさん、ここは・・・!」
目を輝かせたアンが室内を見渡す。
「・・・ああ。」
居心地が悪そうなギルバートだが、その仕草すらもアンの心を満たす。
「ギルバートさん、どうして私が猫好きって分かったんですか!」
アンからのおねだりでデートをすることになった二人は、鬼の監察官に全く似合わない場所、ねこカフェに来ていた。
アンの勤めるパン屋は『ねこのパン屋』、その名の通り、先祖代々、家族全員、猫が大好きだ。だが、食品を扱う商店のため、動物を飼うことは許されない。
その為アンは町にいる野良猫でいつも癒されていた。ギルバートとの帰り道でも「あ!ねこ!」と言って近寄ることがしょっちゅうだ。猫好きであることはよく分かっていた。
「ここ、何だか贅沢な雰囲気ですねぇ。個室のねこカフェなんて初めてです!」
ギルバートは、ジェフリーに「アンは猫が好きだと思う。」と伝えると、王都内のねこカフェをいくつか教えてくれた。ギルバートの心情を鑑みた、優秀な補佐官ジェフリーは、個室のあるねこカフェだけをピックアップしてくれていたのだ。
「かわいい~!」と繰り返すアンを見て、ギルバートは安堵した。自分には似合わないこの場所だが、アンが満足してくれていれば、それでいい。
「ギルバートさんは、どの子が好きですか?」
もふもふと猫に囲まれたアンは、にこにこと尋ねた。
「う・・・そうだな・・・。」
アンの周りには猫たちが集まっているが、恐ろしい容姿のギルバートには一匹も近付かない。それにギルバートは、アンのために来ただけで、大して猫は好きではないのだ。だが、それをアンにそのまま告げるのは憚られた。
「あー、アンは?」
「私はこの子です!」
アンが抱き上げたのは一匹の茶トラだった。「パンみたいな焦げ目があるのがいいですよね~。」と頭を撫でている。
「・・・俺は、あまり動物には好かれないんだ。」
自嘲気味に呟くギルバートに、トコトコと、一匹の子猫が近づいてきた。目がぱっちりした、三毛猫だ。ギルバートの足に遠慮なく、すり寄っている。
「ギ、ギルバートさん!!好かれてますよ!」
驚かさないよう小声だが、興奮気味のアンと、目を見開いて子猫を見つめるギルバート。怖々と、ぎこちなく、その子猫を抱き上げ、頬を撫でると「みゃあ。」と鳴き、心地良さそうにしている。
「こいつは、警戒心に欠けているな。」
アンみたいだ、と子猫を優しくすりすりと撫でるギルバートを見て、アンは自分がそうされているような錯覚を起こし、顔を熱くさせた。
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