第23話

「おい、ジェフリー。」



 お昼休み、ジェフリーが愛妻弁当に舌鼓を打っているとギルバートが声を掛けてきた。はい、と返事をしてギルバートの方を見ると、眉間に皺を寄せている。何かやらかしただろうか、と最近の職務について思いを巡らせていると。







「あー、うん、お前はいつも奥方とどこに外出するんだ?」




 歯切れ悪く告げられた、鬼の監察官にそぐわない言葉に、ジェフリーは戸惑い、咳き込みそうになるのを必死で止めた。ここで変な反応をしたら機嫌を損ねるだろう。そしてこの上司をここまで翻弄できるのは一人しかいない。





「えー。あー。そうですね。俺の所は、公園で散歩したり、植物園に行ったりしますね。過ごしやすい時期はハイキングとか。」





「ふむ、なるほど。」




 几帳面なギルバートが手帳に書き込むのを見て、ジェフリーは可笑しかった。




「あー、だけど先輩?」




「何だ?」




「えーと、その、アンちゃんと行くんですよね?」





 恐る恐る尋ねると、ギルバートは決まり悪そうに視線を逸らせた。




「あ、ああ。」



 前日の帰り道、何かして欲しいことは無いかと尋ねた。すると、彼女は「デートをしてみたいです!」と笑顔で答えた。ギルバートは、内心パニックになりながらも「ではプランを考えておこう。」と返したのだ。




「俺が公園や植物園に行くのは、妻が自然が好きだからです。だから、俺と同じ場所で楽しめるかは分かりません。」





「な、なるほど。」



 ギルバートは、目から鱗という様子で頷く。ジェフリーの言葉をメモしているのが分かり、いつもギルバートに苦労を掛けられているジェフリーは気分が良い。




「だから、アンちゃんの好きそうな場所が良いんじゃないんですかね?」



 ギルバートは、初めてジェフリーに感心した。とても有意義な意見を貰えた、と思ったがまた新たな課題が発覚した。







「アンの好きなものって、何だ?」



 アンの好きなものと言えばパンだろう。だが、アンの前世の記憶のお陰で、ねこのパン屋では美味しいパンが豊富で、王都一だと言う者も少なくない。パン作りが飛び抜けて上手いアンがパン屋巡りをしても楽しくないかもしれない。



 ギルバートとジェフリーが悩んでいるうちに、昼休みの時間が過ぎて行った。





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