第22話
神殿からの帰り道。
ギルバートとアンは王都の街を歩いていた。
最初は馬車で迎えに来てくれていたギルバートだが、馬車だとほんの短時間でアンの家に着いてしまう。歩いて帰りたい、という婚約者の可愛いおねだりに、ギルバートは一も二もなく受け入れてくれた。
王都の街並みは、美しく整備されており、道に沿って季節の花々が植えられている。「これ、きれいですね!」「もう春ですね~」と言えば、ギルバートは「ああ。」と返すだけだが、そんなやりとりがアンは楽しかった。
歩いていると、最近評判の出来たばかりのカフェが見えた。外装は可愛らしく、パステルカラーの看板や装飾が珍しいとデートスポットになっているらしい。
(私も、ギルバートさんと。)
一瞬、そんなことを思った。だが。
アンが勇気を出して誘っても、真面目なギルバートのことだ、眉を寄せて「夕食前にカフェなんて駄目だ。」と一蹴されるだろう。
また万が一誘いが成功しても鬼の監察官が可愛らしいカフェにいるのは何ともミスマッチだ。向かいの席でアンはニヤニヤしてしまうかもしれない。
「どうした?」
頭の中で勝手にあれこれ想像していたら、思わず笑みを溢していたらしい。ギルバートが怪訝そうに尋ねてきた。
アンはまた考えた。ここで正直に伝えたらギルバートの機嫌を損ねるだろう。何と伝えたらいいか。
「えっと、その、ギルバートさんのこと考えてました。」
「なっ!」
苦し紛れに伝えた言葉は、想像以上に破壊力があったようだ。声を上げるギルバートを、アンは初めて見た。自分の言葉で顔色を変えるギルバートを見ていると、心がふわふわと暖かくなった。
(ああ、もう着いちゃうなぁ。)
アンはガッカリしてしまう。ギルバートは、先程のことは無かったかのようにいつもの仏頂面に戻ってしまった。いや、いつもより表情が硬いような?
「あー、アン?」
「はい。」
「何かして欲しいことはないか?」
へ?と、アンは目をぱちくりさせた。何か遠回しに言いたいことがあるのだろうか。いや、ギルバートにそんな真似は似合わない。
「あー、その、あれだな。」
ギルバートは珍しく歯切れが悪い。
「最近、レッスンも聖女の仕事もあって忙しくしているだろう。何か手助けできないかと思ったんだ。」
その、婚約者として、とそっぽを向いて伝えられ、アンの鼓動は高鳴った。
「それなら、一つお願いがあります!」
張り切って伝えたアンのおねだりに、次はギルバートが目をぱちくりさせる番だった。
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