第15話



 我が国では、現在の国王陛下の実子はルイス第一王子とサイモン第二王子であり、王位継承権を争っている。




 サイモン第二王子は、魔術に造詣が深く、カリスマ的な人気を博している。


 しかし、デニスが言うには、その第二王子は秘密裏に、王宮と対極の関係にある革命派に所属していると言うのだ。




 今回のアンの誘拐は、革命派によって行われたが、見せかけだけの物で、本当の目的はアンを支配下に置くためのものだった。いつでもアンの家族を同じ目に合わせることが出来る、という警告だ。これを利用して、アンを好きなように使うつもりだった。




「誘拐犯役は、誰でも良かったのです。逮捕されても良い人材から探しているようでした。私は、娘の治療費の為に少しでもお金が必要だったので、自分から志願しました。」



「革命派の中には、私のように家族や自分自身が病に罹患している者が少なくありません。革命派に属していれば、聖女と会う機会を優先して作って貰える、と甘い言葉で、誘われるのです。実際には、そんなことはありませんが。」



 私もそんな言葉に騙された間抜けな男です、とデニスは悲しそうに笑った。





◇◇◇




「以上が報告です。」



「はぁ~~私の弟は、随分とヤンチャしているようだね。」




 ギルバートがいつもと変わらない鬼の能面顔で報告した相手は、ルイス第一王子だ。家族とジェフリー以外でギルバートを恐れない稀有な存在だ。…………最近は、そこにアンも加わっているが。



 ギルバートとルイスは、学園時代の同級生である。ルイスは優秀なギルバートを傍に置いておきたかったようだが、ギルバートは監察庁を希望した。立場の違う二人だが、協力が必要な場面では、こうやって情報共有している。



「その新米聖女様、アンちゃんだっけ?そんなに凄いの?」



「他の聖女たちの何十倍も癒しの力を有しています。」



 ジェフリーが、例の検査結果を渡す。ルイスは一見し、「これはすごいね。」と感心したように頷いた。



「アンちゃんには、後ろ盾は無し、と。これは私の弟で無くても狙うだろうね。」



 ギルバートとジェフリーが最初に危惧したように、やはりアンが平民であることはアンにとって不利に働いている。






「それなら。」




 ルイスはそれはそれは、美しく笑い、言葉を続けた。








「私の婚約者になって貰おうかな。」




 ギルバートとジェフリーは目を見開いた。聖女と言えど、平民のアンが第一王子の婚約者など誰も認める筈が無い。アンが悪意に晒され、辛い思いをするということだ。




 ジェフリーは慌て始めた。ギルバートの顔を他の者が見たら、いつもの鬼の監察官の顔だと思うだろう。しかし長い付き合いのジェフリーは、ギルバートがどれほど激怒しているか、聞かなくても分かるほど不穏な空気を醸し出していたからだ。








「…………ルイス殿下。それは難しいかと。」


 絞り出したギルバートの声は、酷く冷たいものだった。




 


「そうかな?私の所にいたら、弟も、革命派も手を出せないだろう?」



 ギルバートの怒りには素知らぬフリをして、ルイスはにこにこと笑っている。




「殿下の婚約者になれば、アンに相当な負担を掛けます。」





「そうだけど、命の危険よりはマシだろう?」






「…………!アンは!穏やかな日常を望んでいます!殿下の婚約者では、それは叶えられません!」



 荒げた声に、ルイスとジェフリーは勿論、ギルバート自身も驚き、室内は静寂に包まれた。

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