第14話


 アンの提案に、ギルバート以外の全員が反対した。だが、ギルバートが冷静にアンの意見を聞き取り、ギルバートや他の者が付き添うことを条件に許可を貰うことができた。




「ギルバートさん、ありがとうございます。」



 面会室に向かう途中、アンはギルバートへお礼を伝えた。



「…………本当は、心配なんだ。」



「え?」



「だけど、アンのしたい方法取りたいと、思っている。」




 ギルバートの表情はいつもの冷たいものだが、アンは暖かさでいっぱいになった。




「ギルバートさん…………。」



「よし、入るぞ。危ないことはするな。これだけは約束しろ。」



「…………っはい!」



 元気よく返事をするアンを見て、ギルバートは頷き、面会室のドアを開けた。





◇◇◇




「あ、聖女様、さっきぶりだねぇ。」




 面会室で、護衛に挟まれ、両手を後ろに拘束されている男は、へらりと笑った。



 誘拐犯は、デニスと名乗った。ジェフリー達の予想通り、デニスは革命派の一員で、聖女の力を目的にアンを攫ったとペラペラと話しており嘘は無いように聞こえた。



 しかし、アンやギルバートが感じていた違和感、誘拐を成功させる気持ちが見えなかったことについては、のらりくらりと躱した。





 なかなか核心に迫れず、痺れを切らしたアンは、徐ろに立ち上がると、デニスに近付いた。



「アン!無闇に近付くな!」



(ギルバートさん、ごめんなさい。でも。)



 デニスの後ろに周り、デニスの手を取る。



「な、なにを…………。」



 デニスの表情が初めて崩れた。その直後、室内は眩い光に包まれた。しばらく、辺りが見えない状況が続き、漸く目が慣れた頃に、戸惑うデニスが口を開いた。



「聖女様、まさか…………。」



「あの荷台で手を借りた時に気付きました。もう治っていると思いますよ。」



「アン?どういうことだ?」



 訳が分からず、面食らった様子のギルバートが尋ねた。





「デニスさんは、病に罹患していました。」



「病だと?」



「はい。私の母が罹っていたものと同じもので、末期だったと思います。本当なら立ち上がることも辛かったはずです。」




「魔力を使って一時的に症状を抑えていたのでしょう。」



 ロナルドの推測に、アンも頷いた。



「それで?病と誘拐と何が関係あるのか?」



「私が今、癒しの力を使わなければ、デニスさんは余命幾許も無かったでしょう。つまり、近い内に亡くなると考えていたから、無謀な誘拐を行った。捕まっても良いと考えていた。」



 デニスの表情が哀しみに満ちた。先程まで、へらりと笑っていた彼とは別人のようだ。




「聖女様…………、こんな大それた事をしておいて申し訳ないのですが…………。」



◇◇◇



 アンの母やデニスが罹患していた病は、特効薬が無い。そして、発症には遺伝要因もあると言う。アンも発症リスクが無いか定期的に検査している。



 アンは幸運にも、検査は毎回陰性だ。だがデニスは、自分だけでなく、たった一人の娘まで罹患していると言う。




 アンは、デニスへ娘にも癒しの力を使うことを約束した。そのお返しに、とデニスは誘拐の本当の背景を語り始めた。


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