第13話


 アンが監察庁に戻ると、神官長のグレッグと魔術協会長のロナルドが出迎えてくれた。



 グレッグとロナルドは、初対面こそ印象は地の底に堕ちていたが、一か月一緒に働くようになり、とても優秀な人間だとアンは知ることとなった。




 アンが攫われてから、あまり時間は経っていない。この短時間でロナルドは、探索魔法でアンの居場所を探してくれたらしい。そしてグレッグは、アンが怪我をしていた時の為に、聖女を複数連れて待機してくれていた。




「お二人ともありがとうございます。」



「いえ。お礼はギルバート様に。私は転移魔法で聖女様の元へ行こうと準備していました。ただ、転移魔法には事前準備が必要ですし、誘拐犯の確保の為に複数の人間を転送させるには時間を要します。聖女様の場所を聞いたギルバート様は準備を待たずに馬で単独で向かってしまわれたのです。」




「あれほど焦っておられるギルバート様は初めて見ましたよ。」


 笑い合う二人だが、アンはギルバートが心配してくれていたことを改めて感じ、心がぽかぽかと暖かくなるのを感じた。




◇◇◇



 医師の診察を終え、怪我が無いことを確認された後、アンは事情聴取を受けた。



「あの方は、本当に私を攫おうとはしていなかったと思います。助けがすぐ来るのも分かっていましたし、ギルバート様が来ても何の抵抗もしていませんでした。」



「確かに抵抗はしなかった。」



「自分のことを、優秀な魔術師ではないと、話していました。連続して転移魔法は使えない、と。革命派の魔術師は、皆さん同じくらいの実力なのでしょうか。」



「いえ。連続して転移魔法を使ったり、遠距離で使うことのできる魔術師は複数いるはずです。あの男より優秀な魔術師はいくらでもいると思いますが。」


 まぁ、私より有能な者はいませんが、と付け加えながらロナルドは説明した。



「本当に誘拐しようとしたら、その優秀な方で遂行しますよね。あの方は、何だか捕まっても気にしていないような印象でした。」



「なぜ、そんなことを。」


 全員で首を捻るが、男の真意は分かるはずもない。






「あの、一つお願いが。」




「なんだ?」




「私とあの方とお話させていただけませんか?」


 アンの突拍子もない提案に、ギルバートを含むその場にいた全員が目を丸くした。

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