第11話
「お前たち・・・。」
ジェフリーより報告を受けたギルバートの声は明らかに激怒していた。その場にいる全ての者が怯え、震えるほどに。いつもギルバートに無駄口を叩くジェフリーすら恐ろしく感じるほど、激怒していた。
ジェフリーは、ギルバートにボコボコに殴られ、蹴られたとしても、それが当たり前だと思った。自身の甘さをよく理解していたからだ。監察庁の中だから大丈夫だろう、近くで見ているから大丈夫だろう、そんな気の緩みからアンは攫われてしまった。
ギルバートの手が伸びてきたのが見えた。殴られる、と思った時。
「早く行け。グレッグとロナルドに連絡だ。」
ギルバートは、ジェフリーの肩を叩いただけだった。
「ですが…………。」
「説教は後だ。」
踵を返し、他の職員へ指示を出し始めたギルバートを見て、ジェフリーは慌てて自分のすべき事に手を付けた。アンの無事を必死で祈りながら。
◇◇◇
(ああ、失敗しちゃったなぁ。)
今にも壊れそうな、ぼろぼろの荷車の荷台に連れ込まれたアンは、心の内で後悔していた。ギルバートにもジェフリーにも、初めて会う人には特に警戒を怠らないように口酸っぱく言っていたのに、少し油断したらこれだ。今頃監察庁の中は大混乱しているだろう。
(あの護衛とジェフリーさん、怒られていないといいけど…………。)
いや、怒られるくらいなら良い。何かしら処分を受ける事になったら…………考えるだけでも恐ろしく、アンは身震いした。
「…………聖女様?大丈夫?」
アンを監察庁で攫い、恐らく何らかの魔術でこの荷台へ転送し、アンを拘束した初老の男性は、心配そうに尋ねた。
「震えているけど、寒いかな?」
アンが小さく首を横に振ると、男は了解したように頷いた。
「手荒な真似をして、申し訳ない。だけど、決して聖女様の身に危険が及ぶことはしないと誓うよ。恐ろしいと思うけど、どうか安心してほしい。」
自分を攫った相手を無闇に信じるほど、アンは小娘ではないが、それでも今すぐ命の危険は無さそうだと小さく息をついた。
「まあ、すぐに助けも来るはずだよ?」
そんなまさか、とアンは呆れる思いだった。しかし、男はそんなアンの思いを見透かしたように笑った。
「今、どうして荷台で移動していると思う?最初のように転移魔法を使った方が安全じゃない?」
「…………どうして、って。」
「私が、連続して転移魔法を使えるほど、優秀な魔術士ではないってこと。」
男が優しく笑った瞬間、二人が乗っている荷台は大きな音を立て、止まった。
「アン…………!」
外からはアンが一番信頼できる人の声が聞こえた。
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