第10話
監察庁での出張販売が終わり、帰路に着こうとすると、ジェフリーがアンの護衛に声を掛けた。アンが監察官面接を受けるように、護衛達も監察庁に来る度に異変がないか報告している。二人の視界に入る程度に離れ、監察庁の廊下に貼られている掲示物をぼんやりと見ていた。
「あ、聖女様!こちらでしたか!」
「へ?」
「すみません、あちらで急病人が出てしまって…………。意識が無く、動かせないのですが、こちらに来れる医師を見つけられなくて、困っておりまして。助けていただけませんか?」
慌てた様子で近付いてきた、助けを乞う初老の男性は監察庁の名札を身に付けており、怪しい人間では無さそうだ。
「嘔吐の後に意識を失ったのです。熱も酷いようで。」
その症状は、アンの母スーザンが大病を発症した時と同じものだった。
「すぐ案内してください!急いで!」
スーザンと同じ病かは分からない。だが、アンはもうあの病で苦しむ人を見たくは無かった。男性に案内され、アンはジェフリーや護衛に声も掛けずに走り出した。
◇◇◇
「は…………?」
ジェフリーと護衛は、アンとほんの数メートル離れた場所で話をしていた。勿論アンを視界に入れたまま。目を離すことは無かった。
「アンちゃん!なんで!」
アンは確かに、そこにいたはずなのに、前兆もなく、煙のように一瞬で消えてしまった。
「やられた…………!」
ジェフリーと護衛には、アンに異変があったようには見えなかった。アンには、誰一人近付いていない。それなのに、こんなことが出来るのは。
「恐らく、革命派の仕業だ。」
ジェフリーは護衛と共にギルバートの元へ急いだ。
◇◇◇
グレッグが神官長をしている神殿と、ロナルドが会長をしている魔術協会は、王宮と対等の立場であり、協力関係にある。
グレッグとロナルドは、アンとの初対面では情け無い姿を見せたが、実際には相当な力を持つ権力者だ。二人の力によって、神殿や魔術協会の関係者は、アンに手出しは出来ない。
しかし、神職者や魔術士の中には、王宮の方針や施策に反発する者がおり、その者達で構成されるのが革命派である。神殿や魔術協会には属していないのでグレッグとロナルドの力が及ばない。
実力行使で攫われたのではない。何らかの力を使って、気付かれないようにアンは攫われてしまったのだ。
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