第7話




「問題とは何でしょうか。」


 アンの問いに、ギルバートは冷静に無駄の無い説明をした。


 現在存在している聖女は二十名ほど。その全員が貴族だという。貴族の場合、自身の家で雇っている護衛もいるので、王宮からの派遣も少なくて良い。だが、アンの場合はそうはいかない。


「他の聖女より多く護衛を派遣できるよう申請する。おそらく問題ないだろう。問題は、アン。お前の力が強すぎるということだ。」


「へ?」


 先程グレッグとロナルドが勝手に行った検査の用紙をジェフリーが広げる。


「今いる聖女たちの何十倍もの力があるようです。だから神殿も魔術協会も、週一回・半日でも喜んで受け入れたんだと思いますよ。少し来てくれるだけでも、十分すぎる戦力になるから。」


「そ、そんな・・・。娘は大丈夫なのでしょうか。悪い者に狙われるようなことがあったら・・・」


「護衛の増員で防げるとは思います。ただ、逆に小さな悪事だと護衛では防げないのです。」


 トーマスの必死の言葉に、ジェフリーが優しい口調で話し始めた。恐らくギルバートが説明すると、トーマスがそろそろ気絶することに、これまでの経験により気付いたからだ。


「誘拐や組織的な犯罪の場合、護衛がすぐ気付き対応しやすいんですよ。しかし、小さな悪事・・・例えば知人から癒しの力を依頼された場面で、聖女は困っているんだと思って助けに行く。だけど、実はその知人が悪人で、聖女が帰った後で法外な金銭を受け取る、なんて事例はいくらでもあります。しかも護衛も、聖女の知人だと思っているから気付きにくいんです。」


 これには、アンですら顔を青くした。今まで仲の良かった人を、これからは疑ってかからないといけない、ということだ。


「だから、先程話した、監察官面接の頻度を増やした方が守りやすいと考えています。」


「監察官面接?」


 聖女たちは、監察官による面接を定期的に受けている。何か困ったことはないか、怪しい人間が接触していないか、確認し聖女を守るためだ。そして業務以外で使用した癒しの力を申告する必要がある。これも聖女が知らぬところで、力を不正に悪用されていないかを調べるためだ。アンは他の聖女と違い、平民なので余計に悪人が接触しやすい。


「週三回、監察庁に来て面接を受けてほしい。」


「週三回・・・多いですね。」


 鬼のようなギルバート相手に正直すぎるアンを見て、トーマスは慌ててアンに言い聞かせた。


「仕事はいいから行きなさい!アンを守る為なんだから!」


「そうそう。最初に言ったようにアンちゃんの代わりに働く護衛も確保するし、パン屋さんに迷惑をかけないようにするよ?」





「あの~それでしたら・・・。」


 アンのとんでもない提案に、とうとうトーマスは気を失ってしまった。

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