第4話

神官長グレッグと、魔術協会長のロナルドは、顔面蒼白となり、あんなに煩かった口を閉ざした。部屋のテーブルには、先程使用した水晶や機械、そしてアンとトーマスに説明するための資料、契約書まで散乱しており、先に話を始めていたのは明らかだ。



「・・・君は何故止めなかったのだ?監察官同席でなければならないという決まりを知らなかったのか?」


 ギルバートは王宮職員へ咎めるように言った。王宮職員は怯えてしまい、震えて言葉が出ないようだ。一方グレッグとロナルドは、直視できないほど恐ろしい形相の、監察官の矛先が王宮職員になったことに安堵しているようだった。




「あの、発言してもよろしいでしょうか?」


 アンは耐えきれなくなり、思わず挙手をした。視界の端で、気絶しそうなトーマスが見えるが・・・アンは見なかったことにした。


「なんだ?」


「そちらの王宮の方は、お二人へ何度もその決まりについて説明されていました。私は学がありませんし、この決まりのことも今日初めて知りましたが、そんな私にも分かりやすい言葉でした。王宮の方が説明を怠ったわけではありません。」


 次はグレッグとロナルドが気絶しそうになっていたが・・・こちらも見なかったことにした。


「なるほど・・・そういうことだったのか。」


 ギルバートは王宮職員へ「すまなかった。」と言った後、グレッグとロナルドをギロリと睨んだ。二人は小さくなり、「申し訳ありません。」とギルバートだけでなくアンとトーマス、そして王宮職員へも頭を下げた。




「聖女が新しく見つかったのは十年ぶりで、つい焦りました。」


「それは分かっている。だが、監察官同席無しで契約してしまった場合、無効になるどころか懲罰の対象になるのは知っているだろう。」


 ひぃっ、とアンの隣でトーマスが小さな叫び声を上げた。お人好しで気が小さいトーマスに、やっぱり負担を掛けているな、とアンは肩を落とした。




「先輩~。取り敢えず、新しい聖女様に説明してあげた方がいいんじゃない?」


 ギルバートの後ろからひょっこり現れた男性は、補佐官のジェフリーと名乗った。


「ああ、そうだな。聖女様、よろしいですか?」


「あの、聖女様ではなく、アンと呼んでいただけませんか?」


 トーマスはアンが発言する度に顔の色が無くなっていく。これほど狂暴そうな相手に、なぜ娘は普通に話しかけているのか、トーマスは不思議でならなかった。



「アンちゃん、肝が座ってるねぇ。先輩に臆せずに話す人なんて殆どいないよ。女の子なんて卒倒する子ばかり。」


 ジェフリーの言葉に、トーマス、グレッグ、ロナルド、そして王宮職員まで大きく頷いていた。



「そうでしょうか?監察官様は、今日一番私の話を聞いてくださっていて、むしろ話しやすいです。」


 その場にいる、ギルバート以外の全員が目を見開いてアンを見ていた。アンは窓口でパニックになった王宮職員たちよりも、こちらの意見を聞こうともしないグレッグやロナルドよりも、ちゃんと話を聞いてくれたギルバートに信頼できると感じていた。



「ジェフリー。お前も脱線しているぞ。それでは、アン。今から聖女に関する説明を行う。」

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