第3話

「まさか、王宮に来ることになるとは・・・。」


 アンが母親の病を治し、聖女だと判明した翌日、アンと父親のトーマスは聖女の届け出を出すために王宮へと訪れていた。・・・ちなみに気の弱いトーマスは、生まれたての小鹿のように震えている。



「あの、すみません・・・娘に聖女の力があるようなのですが・・・。」


 トーマスが担当部署に声を掛けたとき、その場にいた全職員がアンに注目した。周囲はざわつき、職員は右往左往している。トーマスの一言で大勢の人たちをパニック状態にさせてしまったようだ。この時点でトーマスは帰りたそうだ。二人はすぐに別室に通された。明らかに上質すぎる部屋で、逆に居心地の悪さを感じてしまう。




「どうなっちゃうのかな・・・。」


 見るからに挙動不審になっているトーマスに、アンはぽつりと呟いた。


「お父さん、ごめんなさい。私がこんな風になったせいで・・・。」


 町のパン屋には恐ろしい待遇だ。しかもこれから何が起こるかも分からず不安も大きい。だが、アンは自分にこれから起こること以上に、今父親を困らせていることが心苦しかった。



「いや、父さんこそごめんな。驚いてしまって。」


 トーマスは小さく息を吐くと、アンの頭を撫でた。


「それに、アンの力には感謝しかないぞ。母さんを助けてくれたんだからな。申し訳なく思う必要はない。胸を張ってくれ。」


 いつものようにニッと笑うトーマスを見て、アンはようやく胸を撫で下ろした。そこへ走ってやってきた様子の二人の男性が部屋に飛び込んできた。部屋の前で待機していた王宮職員の言うことも聞かずに。




◇◇◇



 王宮職員の言い分はこうだ。


「聖女様が見つかった際の手続きは、監察官同席でなければ出来ない。到着するまで待つように。」


 何も知らないアンとトーマスでも理解できる指示だ。しかし、二人の男性はその指示を無視して話し始めた。この時点で、アンはこの二人の男性はあまり信用ならないな、と感じた。


 まず二人は何やらよく分からない水晶や機械を使って、アンが本当に聖女なのかを検査しているようだった。そして、間違いなく聖女だという結果を出したようで男性二人は大喜びしているが、アンはどこか他人事のように思っていた。




 一人の男性は、神殿で神官長をしているグレッグと名乗った。グレッグの主張はこうだ。


「ぜひ、神殿で聖女登録してほしい。神殿では、国民の病や怪我を治療するために、一人でも多く癒しの力を持つ聖女様が必要なんだ。」



 もう一人の男性は、魔術協会の会長をしているロナルドと名乗った。ロナルドの主張はこうだ。


「貴方は魔術協会で聖女登録するべきだ。今、魔術協会より神殿の方が聖女が多いのだから、こちらで登録するのが道理というもの。魔術協会では、騎士団や医療・福祉関係で使用するエリクサーを作っており、それには聖女様の癒しの力が欠かせない。」


 グレッグとロナルドは、王宮職員の制止を物ともせずに、矢継ぎ早に「こちらに来るべき!」と主張した。トーマスは事の重大さに怯えていたが、アンはうんざりしてしまい、もう帰ろうかな、なんて考えていた時。



「聖女様の届け出は、監察官同席で行うと定められているのだが?」


 鬼の能面のような恐ろしい顔の男、ギルバート=スペンサーが到着した。

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