第2話
「ただいま~。」
「おかえりなさい。たくさん売れたかしら?」
アンがねこのパン屋に戻ると、母親のスーザンが迎えてくれた。
「うん、今日も売り切れだったよ~。お母さんは疲れていない?大丈夫?」
「ええ。アンのおかげで調子が良いのよ。」
ほんわかと笑うスーザンを見て、アンはほっと胸を撫で下ろす。つい一ヶ月前まで、スーザンはベッドから一歩も起き上がれないほどの大病を患っていたのだ。
(お母さんが元気になって本当に良かった・・・)
スーザンがこれほどまでに回復したのには、ある訳があった。
◇◇◇
スーザンに病が見つかったのは一年前だった。最初は風邪だと思われた症状が悪化し、実は別の病だと分かった。それからアンは治療費を稼ぐために必死で働き、スーザンを一生懸命看病した。父親のトーマスも同じように、必死で働き、また良い医者を探すのに奔走した。しかし、どの医者も「余命は後一年でしょう。」としか言わなかった。スーザンはどんどん病に侵されていった。
一ヶ月前、一日のほとんどを眠っているスーザンの手を握り、アンは目を閉じて祈った。
(神様・・・お願いします。どうかお母さんを連れていかないで)
それは、アンが毎日祈っていることだった。しかし、この日だけは願った後に不思議なことが起きた。
(なにこれ・・・。)
願った後、目を開けるとスーザンと繋いだ手が、真っ白な光に包まれていた。しばらくすると光は消え、そして。
「あれ、アン?何だか今日は調子が良いみたい。」
自力で起き上がることも、声を聞けるのも、もうずっと前に出来なくなっていたのに。アンは嬉しさの余り大声で泣き、その声を聞き付けたトーマスが飛んで来た。
その後、トーマスが呼んだ主治医の検査の結果、信じられないことに病魔は全て消失している、と言われ、家族全員大喜びだった。しかし、主治医は不思議そうにしており、正直に何があったか伝えた。
「お嬢さんは、聖女だったのですね。」
今度は家族全員で息を飲んだ。聖女なんてお伽噺のような、自分達には何も関係の無いことだと思っていたからだ。聖女と言われた瞬間、アンは前世の様々な記憶が急に頭を駆け巡った。
◇◇◇
この国では、稀に前世の記憶を持った聖女が生まれる。ただ、聖女が前世の記憶を思い出すには、何かしらのきっかけが必要となる。そして、このきっかけと同時に『癒しの力』を授かる。
アンが母親の為に祈り、病を治し、前世の記憶を思い出したように。
現在この国には二十名ほどの聖女が各地にいる。そして、聖女の力が現れた場合、必ず王宮へ届け出を出さなければならない。
この届け出の時のハプニングがきっかけで、アンはあの鬼の監察官ギルバートとの縁が出来たのだ。
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