第13話 両親と、別れと、新たな職場
「ニーナ、村長から聞いた。担保になるのだな。嫌なら、断ってくれてもいいんだぞ」
家に帰ると父さんにそう言われた。
「でもそんなことをしたら。みんなが迷惑じゃないの」
「こういうことは村人全員で分かち合う。その時はもちろん俺だって担保になる。交代で務めるのが筋ってものだ」
「いいのよ。決めたから。それに独立する予定だったから」
「ニーナ、ならなぜ泣いているの」
「母さん。あれおかしいな。なんで」
本当に何でよ。
前世の両親が親だと思っていたのに。
いつからかな。
この世界の親が、本当の親だと思っていた。
「つらかったら、弱音を吐いていいんだよ」
「決めたことだから」
ここにいると両親に迷惑を掛ける気が。
今でも十分にやらかしている気がする。
でも止められない。
前世の価値観はどうやってもなくならないから。
便利で裕福な生活、これは譲れない。
それにバッドエンドは嫌。
私の子供達も幸せに生きてほしい。
我がままなのだろうか。
いいえ、そんなことはないはずよ。
「ニーナの考えは分かった。このことは言わないでおこうかと思ったんだが、担保になって街に行く決意は変わらないようだから言っておく。盗賊が目を付けたのはニーナの魔道具が発端だ」
何ですって。
「私……」
「考え違いしないで欲しいのだけどな。ニーナのせいじゃない。やつら金のありそうな所を探していたんだ。魔道具がなくったって目を付けたかも知れない」
「でも……」
「でもはなしだ。だいたい売り出した村長が責任をとるべきなんだ。村長は大人だ。どうなるかぐらい分かる分別はある。気にするから言いたくなかったんだが、冒険者ギルドの人間はみんな知っている。後で聞かされたら悩むだろう」
「そうね。今聞いた方が良かった」
「ニーナ、つらくなったら何時でも帰ってきていいんだからね」
「母さん」
母さんに抱きしめられた。
二人に覆いかぶさるように父さんも。
しばらく泣いてすっきりした。
身の回りの品物を鞄に詰めて荷馬車に乗った。
見送りには村のみんなが来ていた。
私が手を振るとみんな手を振ってくれている。
荷馬車が出て、村が遠ざかっていく。
村人から一人子供が走り出た。
ビュートだった。
ビュートは荷馬車に追いつくと荷台のふちに手を掛けて、飛び乗った。
「俺も一緒に街に行く」
「いいの。そんなことをして」
「さっき母さんに言ったら、紹介状と支度金を渡してくれた」
「ありがと」
「礼はいいよ。元々冒険者にはなるつもりだったからさ。ニーナが街に出たからこうなったわけじゃない。いずれはこうなってたよ」
ビュートも一緒に行ってくれるなら心細くないわ。
馬車は街道をゆっくり進み半日ほどして、街に着いた。
街は城壁に囲まれていて、あれが城塞都市と感心。
これじゃ、おのぼりさんね。
荷馬車は街の大通りにある冒険者ギルドに着いた。
入口を潜るとカウンターが正面にある。
左手の壁は掲示板、右手は酒場ね。
ここが新しい職場。
会社に勤めてた前世の記憶が甦り、ちょっと懐かしい。
カウンターに歩み寄り、村長さんからの手紙を渡した。
「じゃあ、俺は紹介してもらったパーティを探さないと」
ビュートが去って行き心細くなった。
「応接室で話があるそうです」
受付嬢からそう言われ、応接室に入る。
お茶が出されたので、飲んでいると、目つきの鋭い老人と、30代ぐらいの女性が入ってきた。
「ギルドマスターのバートレットと、こっちは受付嬢主任のマリーラだ」
「ニーナです。よろしくお願いします」
「ニーナちゃん、よろしくね。嫌なこと言われたらお姉さんに言って、ギタンギタンにするから」
「はい、その時は」
「よし、紹介も終わったから、さっそく仕事の話だ。聞いている話だと、1日で1万個ぐらい魔道具が作れるんだってな」
「はい」
「取り分は、ギルドと村とニーナで山分けだ。それでいいか」
「はい」
「とりあえず、加減算の魔道具を1日100個作ってほしい。四則演算は1日20個だ。それと、受付嬢の給金は月に金貨1枚だ」
ほう、魔道具だけで、1日銀貨22枚の儲けですか。
悪くありませんね。
「それで構いません」
「とりあえずはそれだけだ。やってもらう受付嬢の仕事はマリーラに聞くといい」
「じゃあ、ニーナちゃん、受付嬢の制服ができるまで研修するわよ。読み書きはどのぐらいできるの? 計算は?」
「雑貨屋やってたので大抵の商品の名前は読めます。計算は得意です。魔道具を使っていいのなら何桁でも余裕だと思います」
「雑貨屋だと、モンスターの名前は分かる?」
「はい、雑貨の素材はモンスターの物が多いので大抵は」
「優秀ね。計算の魔道具を作っちゃうぐらいだから、そうなのかもね。ちなみに計算をどうやって効率化したの」
この質問がくるのは分かってた。
「詳しくは言えませんが、数って10進法でなくてもいいんですよ。こんな具合に」
1から31まで2進数で指を折って数えてみた。
「凄い。片手で31まで数が数えられる。天才ね」
「2進数だと足し算は凄く簡単になります。0か1しかないですから」
「凄いのが分かったわ。私にはとても無理ね」
「今の説明は全部じゃないです。他にも色々と秘術を使ってます」
マリーラは納得してくれたようだ。
プログラム魔法が2進数で動いているのは間違いないはず。
私のイメージではそうなっている。
だからさっき言ったことは嘘ではない。
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