第11話 状況と、数当てゲームと、交渉

 村の入口に急ぐ。

 現場に着くと、皮鎧を着けて剣を抜いている男達8人が、何十人もの農具を構えた村人と、対峙していた。

 状況は良くない。


 これが先遣隊だったら、本隊は5倍?

 いいやもっとかも。


 これが本隊だったとしても、剣と農具じゃ話にならないよね。

 それに村人は戦闘訓練などしてない。


 戦力的に見て、相手を全滅に追い込むのはできそうだけど、こちらにも何人か犠牲者が出るに違いない。

 気の良い村人が犠牲になるなんて許せない。


 盗賊の中に知った顔を見つけた。

 あの石取りゲームでイカサマしてたマルメロ。

 盗賊の斥候だったのね。

 こちらの人数は知られているとして考えないと。

 盗賊側がこの人数差で勝てると考えたのなら、厳しいわね。


 村長さんも来ていたので話をすることにした。


「ああ、ニーナちゃん。危ないから家に閉じこもって出ない方がいい」

「私に考えがあります。状況を聞かせて」


 そう言ってみたけど考えなどない。


「状況は悪い。相手は金貨20枚と、女を要求している。だが、要求を受け入れたら味を占めるに違いない」

「あれは本隊ですか?」

「分からない。バックはあると言っているが、実際はどうか」


「ニーナ、家に戻ろう」


 ビュートがそうさとした。


「危ないことはしないわ。村長さん、時間稼ぎして、その間に援軍を呼ぶことって出来ます?」

「出来ると思う。早馬を飛ばせば、街から冒険者を呼べるはずだ。ただし本隊が待ち伏せしてなければだ」


「本隊はいないものとして考えましょう。いた場合、たぶん年頃の女以外は皆殺しにされるから、そのことは考えなくて良いと思う」

「そうだね。分かった」


 村長さんが村人の一人を呼んで伝令とした。


「時間稼ぎだけど、いいゲームがあるわ。数当てゲームよ。ルールは簡単。出題側は1から100までのどれかの数を紙に書いて伏せる。挑戦者側は数を言う。紙に書いた数より下か上か、出題側がヒントを言う。ピッタリだったらゲームは終りよ。そこまでの回数を競うの。盗賊と村人側で出題者を交互に変えて、繰り返す」

「じゃあ、一回やってみようか」


「数を設定したわ」


 私は23を思い浮かべた。


「50」

「下よ」


「40」

「下よ」


「30」

「下よ」


「20」

「上よ」


「25」

「下よ」


「24」

「下よ」


「23」

「当たり。七回だから、私はこれを上回ればいいの。さあ数字を設定して」

「設定したよ」


 と村長さんが言った。


「50」

「下だ」

「25」

「下だ」

「13」

「下だ」

「7」


「当たりだ」

「私のは4回だから、私の勝ちね」

「ルールは分かった」


「盗賊が勝ったら、金貨1枚。村人が勝ったら、銀貨50枚もらうと良いわ。これなら盗賊が有利だから、何回でもゲームをするに違いない」

「時間稼ぎってわけだね。じゃあ数は1から1000にしよう」

「それがいいかも」


 このゲームには必勝法がある。

 確実な必勝法じゃないけどね。


「ニーナってこんなに賢かったっけ」


 ビュートが首をかしげる。


「雑貨屋の店番は暇だから、一人遊びをするのよ。数当てゲームの出題は魔法でできるから。【乱数1から100】で良いわ」

「【乱数1から100】。ほんとだ52という数が返ってきた」

「でしょ。これに数字と比べて返答するように魔法を組むの」

「【数より下か上か】。20。上って言葉が返ってきた。魔法を一人遊びに使うなんて考えなかったよ。ニーナは天才だ」

「そろそろ、盗賊がしびれを切らしそうだ。代表者として数当てのゲームを提案してくる」


 村長がそう言って前に進み出た。


「にらみ合っていても仕方ない。ここは数当てゲームをして穏便に決着をつけようじゃないか」

「言ってみろ」


 村長さんがゲームの内容を説明した。


「それなら、俺達に損はないな。提案を受け入れてやる」

「おかしら、イカサマが仕組まれているに違いありませんぜ」


 マルメロがそう口を挟んだ。


「そのルールのどこにイカサマを仕込むことができるんだ。伏せた紙を透かして見るとでもいうのか」

「いえ、ですが、嫌な予感が」

「お前は黙ってろ」


 村長が指示してテーブルが一つと椅子が二つ運ばれた。

 テーブルの上にインクペンが置かれる。


 いよいよ始まるのね。

 村長さんが盗賊と話し合って、いろいろと準備する間に、私も準備した。

 さあ、掛かって来なさい。


 勝負するのは私じゃないけど。

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