第4話 村長さんと、プレゼンと、改良

 足し算の魔道具は売れなかった。

 ぐぬっ、負けるものか。

 何と戦っているのかは自分でも分からない。


 仕方ない、こうなったら営業よ。

 計算を頻繁にする人は、村長さんね。


 村長宅の立派な家の庭を抜けて、玄関の扉のノッカーを鳴らす。

 扉が開いた。


「こんにちは」

「あら、ニーナちゃん」


 応対に出たのは村長夫人。

 彼女は村の女達のリーダー的存在だから、気をつけないと。


「村長さんに相談があって」

「重要な事なのかい。しょうもない話だったら、分かっているね」

「新しい魔道具を作ったの。村の特産品にならないかと思って。材料はゴブリンの魔石で十分」

「なるほどね。話を聞く価値はありそうだ。入りな。亭主は執務室だよ」

「ありがとう」


 家に入り、廊下を歩き、執務室の前に立つ。

 ノックすると開いていると声があったので、扉を開けて入った。

 ここは精一杯、愛想よく。


「こんにちは」

「おー、ニーナちゃんいらっしゃい」


 村長さんは快く迎えてくれた。


「計算の魔道具を作ったの。でも誰も買ってくれなくて」

「どれどれ、見せてごらん」


 使い方を説明する。

 村長さんは何度も試して、驚きの声を上げた。


「凄い、天才だ。ニーナは将来、魔道具職人になるつもりなのかな」

「買ってくれないの」

「うーん、普通は足し算の計算と引き算を混じって使うから、これじゃ使えない。すまんね」


 足し算と引き算ができるようにしないといけないのね。

 ええと、あれっ、あれれ。


 足し算のプログラムでは『atoi』という関数を使っているけどこれマイナス記号をつけても正常に働くのよね。


「引き算の場合だけ、マイナス記号を付けてみて」

「ほう。驚いた引き算も出来るね。これなら使えそうだ」


「村の特産品にどうですか?」

「一日に幾つ作れるんだい」

「1万個ぐらいはできると思う」

「ここにはそんなには魔石がないね。でも、売れるなら、魔石を仕入れてもいい。問題はこれさ」


 そう言って村長さんが出したのは、玉がいくつも付いた道具。

 見た目で何の道具なのか分かる。

 そろばんだ。


「ええと、計算する道具?」

「そうだ。算盤と言う」


 ぐぬっ、ライバル出現。


「商品を考える時は機能と価格とデザインよ」

「言ってみなさい」


 機能から考える。


「算盤はおそらく、掛け算と割り算ができる。ここは負けね」


 前世のそろばんがそうだったからそう言った。


「できるね」


 機能では負け。

 でも使い易さでは勝てるような気がする。


「使い易さでは勝っている気がする」

「そうかな。心に数字を伝えられても、大きな数字だと覚えきれないんじゃないかな」

「そこは改善できます」

「いいだろう」


「価格は。ゴブリンの魔石は銅貨10枚ほど。材料費の3倍が物の価値の相場。売値を銅貨30枚とすると、算盤よりずっと安いと思う。ここは勝ちだわ」

「そうだね」


「デザイン。携帯性と言う面では魔道具の勝ちね。ゴブリンの魔石は1センチぐらいだから。逆に小さすぎるような気もするけど、改善は可能よ」


 魔法を使えば魔石の形を変形させることは可能だと思う。

 四角い形にして紐を通す穴を開けたらいいかも。

 デザインは圧倒的にこちらの勝ちね。


「ふむ、総合的に判断すると、よい商品だ。村の特産品として認定しよう。魔道具10個分の銀貨3枚を渡すよ」

「ありがとうございます」


 やった、勝ち取れた。

 やりきったよ、私。


 改良版のプログラムを作る。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>


void main(int argc,char *argv[])

{

 int i,sum=0; /*カウンターと合計*/


 if(argc<=1) return(0); /*足し算なし*/


 for(i=1;i<argc;i++){ /*入力された数だけループする*/

  sum=sum+atoi(argv[i]); /*入力された数値を足す*/

  if(i==1){

   printf("%s",argv[i]); /*最初の数字を表示*/

  }

  else{

   if(atoi(argv[i]>=0) printf("+%s",argv[i]); /*足す数を表示*/

   else printf("%s",argv[i]); /*引く数を表示*/

  }

 }

 printf("=%d",sum); /*答えを表示*/

 while(1); /*無限ループ*/

}


 計算式と答えを表示。

 『printf』を使うとホログラフィで表示されるようね。

 消費魔力は増えているのだと思うけど、プログラム魔法は効率が何万倍もいいので、気にならない。


 目標とする豊かな生活。

 これの基準を前世にしてもいいと思う。

 夢は大きくよ。

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