第5話 商品価値と、賭と、必勝法

 前世の記憶が戻って3日目。


 加減算魔道具を作って小遣い稼ぎしている。


 その加減算魔道具は1日10個ぐらい作っている。

 もっと作れという声が上がりそうだけど、村では材料となるゴブリンがそれぐらいしか獲れないからよ。

 でも確実に儲けは出ている。

 毎日、野菜を街の市場まで運ぶのだけど、この時一緒に売ってもらえるみたい。


 村長さんの話では売れ行きは好調。

 私の取り分は1個につき銅貨10枚。

 1日に銀貨1枚ぐらい儲かる計算ね。


 この世界、銅貨100枚で銀貨1枚。

 銀貨100枚で金貨1枚。

 金貨100枚で、白金貨1枚になっている。


 目標とする金貨1000枚貯めるのには、10万日必要ね。

 年数にすると274年。

 とてもじゃないが、このままだと目標は遠い。


 この解決策は分かっている。

 商品価値を上げるの。


 加減算だけでなく加減乗除算ができるようにすれば良い。

 でもこれは難問ね。

 難問と言える箇所はいくつかあるのだけど、あとでゆっくり考えましょう。


 村長宅に魔道具の納品いくために、通りかかった村に1軒しかない酒場で、歓声が聞こえた。

 呆れた。

 昼間から酔っぱらっているのかしら。

 覗くと男達が何やら遊んでいる。

 何の遊びかな。


「じゃあ始めるぞ。石を握れ」

「おう、握ったぞ」

「8個か。じゃあ3個もらおうか」


 ゲームが始まったみたい。

 石を取っていく遊びね。

 先手プレイヤーが3個石を取った。


「俺は2個」


 後手プレイヤーは2個だ。


「俺も2個」


 交互に繰り返され、石がどんどん減っていく。

 そして最後の石になった。


「くそう、最後の1個だ。俺の負けだ」


 ルールが把握できた。

 まず後手プレイヤーがいくつか石を握る。

 この数は別に多くても少なくてもいい。

 個数制限はない。


 そして交互に石を取るんだけど、取れる数は1個から3個。

 パスは出来ない。


 最後の石を取った方が負け。

 単純なゲームだわ。


 次の対戦相手は、父さんのバートだった。

 父さん負けるな。

 戦況を見守る。

 父さんはたまに勝つけど、大きく張り込んだ時は必ず負けた。

 それというのも対戦相手が必ず先手を取るからだ。


 このゲームは先手を取る方が有利。

 それに相手は必勝法を知っているみたい。

 ずるい。

 懲らしめてあげましょうか。


 必勝法の答えは簡単よ。


 プログラムでは『answer=(x%4-1+4)%4』が最善手。

 『answer』が答え。

 『x』が今の石の数。

 『%4』は4で割った余り。


 答えが0の時は負けパターン。

 この場合は負けなので1個から3個の間の数を好きに取ればいい。


 私は即座に魔法を組み上げた。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

int main(int argc,char *argv[])

{

 return((atoi(argv[1])%4-1+4)%4); /*必勝法*/

}


 という魔法。

 魔法の詠唱は不味いので、魔道具してみた。


「父さん代わって」

「ニーナ、賭け事はお前にはまだ早い」

「父さん、カモられているよ。お小遣いしか賭けないからお願い」


「分かった。何か事情があるんだな」


「さあ、私が相手よ」

「お嬢さんに相手がつとまるかな」

「ルールを少し変えるわよ。双方が石を握って始める。先手は常に私がもらう。見ていたけど、あんたずっと先手だった。ずるいじゃない。だから、私とやる時はずっと私が先手」

「いいだろう」

「さあ、握って」


 男が石を握る。

 3個だ。

 私のは4個。

 石の総数は100個。

 残りは93個ね。


 魔道具が出した答えはゼロ。

 要するに私の負けパターン。


「3個よ」

「2個」


 必勝法では1個なのに、相手は必勝パターンを使わなかった。


「3個よ」


 ゲームは続き。

 私の勝ちとなった。


「どうやらツキが落ちたらしい。俺はここで帰るよ」


 相手は立ち上がりテーブルに積んである硬貨を袋に入れようとした。

 わざと負けたのね。

 勝ち逃げは許さない。


「イカサマのことをばらされたくなければ、椅子に座るのね」

「なんのことかな? まあいい、続きをやろう」


 先手を取ると4回に1回は負ける。

 だけど75%は勝てるということだ。


 何度も繰り返し、相手の金はみるみる減った。

 そして、全てなくなった。


「くっ、やはりツキが落ちたようだ」


 そう言って去って行った。

 対戦相手の男は知らない顔だった。


「あの人誰?」


 父さんに聞いてみた。


「行商人のマルメロだ」

「あのゲームはイカサマなのよ。必勝法があって、それを両方知っていても先手の勝率が75%なの」

「みんな聞いたか。あのゲームには気をつけよう。俺は賢い娘を持って幸せだ」


 巻き上げられたお金は元の持ち主に返した。

 純朴な村人を騙すなんて許せない。

 少し嫌な予感がした。

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