第2話 魔法に関してと、計算魔法と、魔女について

 まず、魔法に関してのおさらい。

 魔法の発動は簡単。

 現象を心に描いて、魔力を込めて呪文を唱える。

 たとえば、【火よ点け】このひと言で着火は可能。

 ただし、私だと10回も唱えると魔力切れになる。


 これの効率を良くして何度も出来るようにするには、【温度1000度で魔力を燃焼材に着火せよ】みたいに、細かく指定すればするほど良い。

 いまならたぶん凄い効率の良い呪文ができると思う。

 熱の正体が原子の振動だって知っているからね。

 酸素の存在も知っている。


 でもね。

 火点けの魔法が上手くなったところでなに。

 なんの得があるのよ。


 ちょっと魔力の多い人なら、【火よ点け】でも30回は唱えられる。

 一日に火を点ける回数なんて多くて5回程度。

 30回は要らないわね。


 水汲みがなくなるのだったら、それもいいでしょう。

 魔力と魔法の大きさは体積に比例するの。

 2倍の大きさの水を出そうとしたら、8倍の魔力が要るわ。


 魔力効率を改善しても100倍程度じゃ焼け石に水よ。

 村人が使うのは火点けの魔法がいいところ。


 それに人を殺せる魔法は不味い。

 国から士官を求められるのならまだましよ。

 魔女認定されて火あぶりが相場。


 とにかくプログラムで魔法を組めばいいのね。


 【int main(void){ return(1+1); }】これでいいわね。

 唱えてみる。

 2と頭の中に聞こえた。

 これなら複雑な計算も簡単ね。

 1割3分引きの計算も容易いわ。


 解説すると。


int main(void) /*最初の『int』は整数の答えを返すという意味。『main』は主関数で、『(void)』は主関数に何も渡さないって事*/

{ /*主関数の始まり。プログラムの始まりと言ってもいい*/

 return(1+1); /*1+1を返す*/

} /*終わり*/


 『/*』から始まって『*/』で終わるのはコメント。

 メモ書きだと思ってもらえれば。


 こんな感じだけど、でもちょっと待って。

 【1+1の結果を求めよ】でもいいんじゃない。

 できたけど、10回ほどで魔力切れになった。

 効率を良くしようにも。

 これ以上どう詳しくしろっての。


 やっぱり鍵はプログラム魔法かな。

 【int main(void){ return(1+1); }】を唱えてみる。

 さっき魔力切れになったばかりなのに、何度使っても魔力が切れない。


 最強の呼び名はだてじゃないのね。

 効率は何万倍にもなっているみたい。


 いよいよ魔女火あぶりルートだわ。

 取り敢えず計算以外にはプログラム魔法は使わないことにしましょう。


 なぜ私がプログラムを作れるかというと、学校で習ったのはもちろんだけど、高校生の時に発明のコンテストに応募したの。

 その製品を作るのにプログラムが必要だったってわけ。

 その頃考えていたのも豊かな老後。

 転生しても変わらないのね。


 それにしてもプログラム魔法がこんなに効率が良いのなら、無詠唱や、短縮詠唱でも大丈夫かも。


 無詠唱は呪文を紙に書いておいて、魔力をこめて見ながら魔法を行使する技術。

 火点け魔法レベルでは、要らない技術。

 魔法使いと呼ばれている、国のお抱えは、使うみたいだけど。


 短縮詠唱はたとえば【温度1000度で魔力を燃焼材に着火せよ】と紙に書いておいて、それを魔力をこめて見ながら【火点け魔法】と詠唱するの。

 当然、無詠唱より効率がいい。

 詠唱を1とすると、短縮詠唱は2倍の魔力が、無詠唱は4倍の魔力が必要。

 無詠唱はすぐに発動できて手の内を明かさないという利点はあるけどね。


「ニーナ」

「ビュート、びっくりさせないでよ。畑作業はどうしたの」

「草むしりしかやる事がなかったから、今日は終り」


 私は【int main(void){ return(      ); }】と紙に書いた。

 こうしておけば、計算が必要になったときに『return』の括弧の中に計算式を書き込めば良い。


「何だ。不思議な文字だな。まるで魔女が使う魔法陣みたいだ」


 ギクッとさせられた。

 どうやらプログラム魔法は表に出せないようだ。


 魔女に関していうと、一般的な人が魔法ではできない不思議な力を発揮する人達の事をいう。

 転移魔法が魔女かどうか、論争が起こったことがある。

 有益だったので転移魔法は許された。

 ちなみに転移魔法は、特殊な才能がないとできない。


 私のプログラム魔法も赦されないかな。

 いいえ、問題は転生の事実よ。

 これは異端認定されそう。


「ただの落書きよ。忘れて」

「忘れたよ」


 私は紙を引き裂いて、細かくちぎった。

 プログラム魔法は危険かも。

 でもこの効率の良さは捨てがたい。

 計算式だって、小数点付きの数字だって、思いのままよ。

 平方根だって計算できる。


 上手くプログラムを組めば連立方程式だって解ける。

 捨てるのは惜しい気がする。

 何か手がないかしら。


 プログラム魔法を隠せて、効率の良さだけ受け取れる。

 そんな方法が。


「ところでビュートは何の用?」

「火点けの魔道具を買いにきたんだ」


「誰が使うの」

「うちのお婆さんが、歯が抜けて、はっきり喋るのが難しいから使うんだ」


 そうよ。

 魔道具なら呪文が書き込まれているけど、その呪文を読み取る手立てはないわ。


「ビュート、ナイス」

「ナイスはいいから魔道具」


「特別に半額にしてあげる。銅貨20枚よ」


 計算の魔道具を作りましょう。

 金の匂いがプンプンしてきた。

 さあ、忙しくなるわよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る