計算の魔女は受付嬢に扮する~私だけが使えるプログラム魔法。魔女認定されたら終わりです。何時になったら、結婚して裕福で幸せになれるのでしょうか~

喰寝丸太

第1話 プロポーズと、日本語と、最強の魔法言語

 私はニーナ、12歳。

 いつもこの世界は私のいるべき世界ではないという思いが離れない。

 そう思い始めたのは6歳の頃。


 村の外れの石碑を見た時から。

 誰も読めない字がその石碑には書いてある。


 これを見るとモヤモヤするんだけど、同時に懐かしい気持ちになる。

 この感情が何なのか分からなくて仕事の休みの時にはいつもここにきてしまう。


 周りは草と蔦に覆われていたのだけど、私が草むしりして掃除しているので、今は綺麗になっている。

 石碑は黒い石で出来ていて、文字が刻んであった。

 普通文字は横に書くのにこれは縦書き。

 ここからして、どの言葉とも異なる。


「ニーナ、やっぱりここにいた」


 そう話し掛けてきたのは幼馴染の男の子でビュート。


「いたら悪い?」


 最近はつい素っ気ない態度をとってしまう。


「悪くはないよ。俺もこの石碑は好きだ。だって誰も読めない字はロマンがあるだろ」

「ビュートには読めないわよ」

「じゃあ、読めるようになったら、結婚してくれる」


 もー、おませさんなんだから。

 結婚適齢期の15歳にはまだ3年あるわ。


「読めたらね」


 私は顔を真っ赤にしてプロポーズを承諾。

 衝撃が私を襲った。

 プロポーズの嬉しさに死んで生き返ったような気がする。

 突然、石碑の文字が分かってしまった。


 『最強の魔法言語はプログラムだ』と日本語で書いてある。

 日本語って何?

 頭の中に別の世界の記憶が駆け巡る。


 思い出した。

 こんな魔法が存在する異世界でなくて、私は科学が盛んな日本で生きていたんだ。

 もやもやが解けてスッキリした。


 日本語だったのねと石碑に手を置いて言うと、転生者よ好きに生きろと答えが返ってきた。

 余計なお世話よ。

 好きに生きてあげるわ。

 ただ、この分だとビュートは一生石碑の読み方を見つけられない。


 私がビュートと結婚したくなったら、答えを教えてあげましょう。

 ビュートに別れを告げて、私の母がやっている村の雑貨屋に帰る。


「あら、休み時間は終り? 今回は短いのね」


 店番をしていたお母さんのデラがそう言った。


「ええ、長年の疑問が解けたので、帰ってきたの」

「それはよかったわね。母さんと店番を代わって頂戴」


 店番を母さんと代わった。

 異世界の記憶が蘇ったことで、家族とギクシャクするかと思ったけど、そうでもないみたい。

 ニーナとしての記憶もあるのだし、当たり前よね。


 私の家がやっている雑貨屋は10畳ほどしかない。

 置いてあるものも生活に関連した物だけだ。

 嗜好品も玩具もない。


 当たり前だと思うけど、前世のコンビニを知っている身としては、物足りなさを感じる。


「おう、砥石はあるかな」


 お客さんの村人が入ってきた。


「いらっしゃい。砥石は3種類あるけど」

「一番細かいのをくれ」


「銅貨47枚になります」

「値引きしてくれよ」

「じゃあ1割の4枚値引きするね」

「もうひと声」

「じゃあ1割1分の。ええと分かんないから、銅貨5枚引くわ」

「買った」

「銅貨42枚ね」


 村人にお金をもらい、砥石を渡す。

 前世では計算が苦手じゃなかったけど、さすがに11%引きは即座に計算できない。


 計算機があればね。

 あれならすぐに答えが出る。


「籠と針とハサミちょうだい」


 またお客さんがやってきた。


「ええと銅貨34枚と、27枚と、61枚で締めて、銅貨122枚ね」

「値引きしてよ」

「一割でいい?」

「あと3分」


 計算をややこしくして多めに値引きさせる作戦ね。

 13%引きだから、122×0.87。

 ということは122×87÷100で出せるはず。


 必死に筆算して、銅貨106枚の答えを出した。


「106枚ね」

「合っているのかい」

「疑うの」

「いいえ疑わないけど。牧師様に聞いてみようかしら」


 商品個別の値段と割引率と計算結果を書いて渡す。

 しぶしぶお金を払い、客が帰って行く。

 レジがあればと強く思う。


 雑貨屋も楽じゃないわね。

 母さんなら話をして煙に巻いて、値引き交渉を有利に進めるのだけど。

 私にはできない。

 記憶が戻る前は、ほとんど客の言いなりに値引きしてた。


 もちろん原価割れするようなことはなかったけど。

 電卓が欲しい。

 ないなら、作れと内なる声が言う。


 作れるかな。

 取っ掛かりが難しい。

 もちろんそんな知識はない。

 ないけど、あの石碑の『最強の魔法言語はプログラムだ』の一文が気にかかる。

 魔法なら可能かも。


 魔法は道具を使わずに便利な事ができる。

 火を出したり、水を出したり。

 電卓だって出せるはずよ。

 魔法はちょっと怖いけどやってみようかな。


 ずばり目標は幸せな結婚と豊かな生活と老後よ。

 それには金貨1枚が10万円だとして、1億円相当の金貨1000枚が目標。

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