第17話


 ワイナリーの見学を終えると、食事会が始まった。ワインに合うオードブルが用意されており、ソフィアもハロルドも美味しい食事を楽しんだ。



(ハロルド、頑張ってくれているわ。)




 ソフィアと二人きりの時は、いつも甘い態度なので忘れがちになってしまうが、ハロルドはいつもは冷たい印象を与える人間だ。相手が、公爵でも、お嬢様でも、それは変わらない。勿論、他の使用人たちや公爵家のゲストに対してもそうだ。



 だが、ドロシーと、ドロシーの夫に対しては、頑張って愛想よくしているように見える。これが素では無いことは、ソフィアがよく分かっている。



(私の大事な友人だから……?)




 ソフィアがあまり人付き合いが上手く無いことは、ハロルドも分かっているだろう。そのソフィアが紹介するということは、特別な友人だということも、有能な執事の彼ならすぐに想像できた筈だ。




 そんな考えが、頭に浮かぶと、胸がぎゅっと締め付けられるような気分になった。そして、何故だか、急にハロルドの手に触れたくなってしまった。思わず、隣に座るハロルドの手を凝視してしまう。ゴツゴツした、大きく、男らしい手だ。





「ソフィア?顔が赤くなってるけど大丈夫?飲みすぎた?」



 急に、ハロルドに声を掛けられ、ソフィアは余計顔を熱くした。




(手に触りたいって……!私、今何を考えて……。)




「そ、そうかもしれないわ。少しテラスで外の空気に当たってくるわね。」



 ハロルドの顔を見ることは出来なかった。不自然ではないように、ゆっくりとテラスに向かうが、身体中に熱さが駆け巡っていた。






◇◇◇◇





「ハロルド様。不躾ながら、聞いていただきたいことがあります。」



 ソフィアが席を離れたタイミングで、ドロシーが神妙に切り出した。




「ソフィアのご両親のことはお聞きになっているでしょうか。」




「はい。今は、自分が窓口になって連絡をしております。」




「そうだったのですね。ありがとうございます。ソフィアのご両親は、その、良い方ではあるのですが、彼女の縁談になると盲目的になるというか……。」



 ドロシーは言葉を選びながら、心配そうに言葉を続けた。




「なので、ソフィアは頼れる相手があまりいないと思うのです。ハロルド様、どうかソフィアをお願いします。ソフィアは、少々誤解されやすい人間ではありますが、優しく、まっすぐな人間なのです。」




 ハロルドはふわりと笑った。






「ええ。よく知っています。」



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