第18話


 楽しい時間を過ごした後の帰り道、馬車の中でソフィアはウトウトしていた。別れ際、ドロシーはソフィアへ「いつでも連絡頂戴ね。」「結婚式、楽しみにしているわ。」と名残惜しそうに声を掛けてくれた。




 食事会の途中、変にハロルドを意識してしまい、テラスから戻った後もワインを飲みすぎてしまったかもしれない。馬車が動き出した瞬間、眠気が訪れ、ソフィアは船を漕いでいた。




「ソフィア?大丈夫?」



 ハロルドが気遣わしげに声を掛けた。このまま、うつらうつらしていたら、どこかに頭をぶつけそうなのを心配しているのだ。



「う、うん。」



 眠気と、酔いとで、頭がぼんやりとしている。先ほど、ソフィアの頭に過った、ハロルドに触れたい思いに上手くブレーキがかからない。




 触れたい。




 触れてみたい。




 触れた時の、ハロルドの顔を見たい。





 もう少し、近づきたい。










 ぽふり。



 ソフィアは、ハロルドの左肩に自分の頭を乗せた。




「ソ……ソフィア?」




 焦ったようなハロルドの声は、あまり聴かないトーンで、ソフィアは可笑しくなった。




「ふふふ。だめ?」




「だめじゃないけど……。」




「じゃあ、このままね。」




 ハロルドの肩は、硬くて、決して枕には適していないのに、何故だかとても心地よい。ソフィアは「気持ちいい」と、ふわふわと笑った。




「ハロルド。」




「うん。」




「あのね、今日、とても嬉しかったの。ありがとう。」



 機嫌よさそうに、にこにこと笑った後、またウトウトし始めたソフィアを、ハロルドは不満そうに見ながら小さく息を吐いた。





 ハロルドが理性を試されながら、ソフィアに肩を貸して道中耐えるのは今からのお話。目が覚めたソフィアが、自分の仕出かしたことを思い出し、パニックになるのは、もう暫く経ってからのお話。

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