第13話

「おや?二人揃ってどうしたんだ?」




 ハロルドからプロポーズを受けた一週間後、ソフィアとハロルドはハワード公爵へ婚約の報告することとなった。




「ソフィアから婚約の了承を得られました。」




「えっ……!」





 目を見開き、口をぱくぱくとしている公爵に、ハロルドはそれ以上の説明はしようとせず、さっさと退室しようとする。





「ちょっ!ちょっと待ちなさい!もう少し、説明を……。」




「これ以上、旦那様に説明することはありません。大体、ソフィアを他の男の目に触れさせたくはないのです。」




「ハロルド……。私は君たちの主人だ。それに既婚者でもある。ソフィアに無礼なことをする訳ないだろう。」




「ソフィアの名を呼ばないでください。」




 人を殺しそうな目でぎろりと睨むハロルドを見て、公爵は大きく溜息をついた。




「ソフィア……ハロルドに何か脅されているんじゃないのか?力になるよ。」




「私たちの婚約を邪魔しようとしないで下さい。」




「ハロルド!」



 いくらハロルドが辛辣な執事であっても、流石に今日は度が過ぎている。ソフィアが制止すると、ハロルドは漸く口を閉じた。




「旦那様。婚約のことは、私自身で決めました。」




「ソフィア……。」




 心配そうにソフィアを見る公爵だが、少し前まで何かしらの弱みを握られ、ソフィアとハロルドがデート出来るよう画策していたじゃないか。そう言ってやりたい気持ちを抑え、再度大丈夫だと伝えようとしたが。





「もういいでしょう。」




 ハロルドは、ソフィアを隠すように肩を抱え、ドアに向かう。公爵が後ろでまだ話しているが、振り返ることも叶わなかった。





「さぁ、今日は休みだし、デートに行こう。」




「ちょっと待ってください。お嬢様のところにも行くって約束です。」




「そうだった……。早く行きたいけれど、ソフィアの一番報告したい人だからね。」




 この一週間、ハロルドは両家への報告を一人でしてくれた。ハロルドの実家は「時間を見つけて二人で顔を見せに来てね。」といった反応で、婚約を祝福してくれた。一方、ソフィアの実家は、報告すら顔を出したくないソフィアの気持ちに気付き、意気消沈していたようだ。婚約自体は了承を得られ、手続きも全てハロルドが済ませてくれていた。


 ハロルドがおざなりにしようとしていた公爵への報告を、二人で行こうと提案したのはソフィアだった。そして、ソフィアの大事な主、シャーロットにも二人で報告に行きたいという愛するソフィアの頼みを、ハロルドが断る筈が無かった。

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