第12話
「ハロルド……。」
「ソフィア、良かった。」
眉尻を下げて、表情を緩めるハロルドを、ソフィアは不思議そうに見ていた。
「どうしたんですか?」
「なかなか帰ってこないから、心配していたんだ。」
ふと気付くと高い位置にあったはずの太陽は、既に沈んでしまい、辺りは薄暗くなっていた。
「ごめんなさい……。」
肩を落とすソフィアに、ハロルドは首を振って答えた。
「俺が会いたかっただけ。」
「うん……。」
「ソフィア?」
明らかに落ち込んでいる様子のソフィアを、ハロルドは心配そうに見つめる。ソフィアは、ぽつりぽつりと語り始めた。一年ぶりに帰った実家で、また縁談話を持ち掛けられたこと、これから縁談話はもっと増えると思うこと、そして、過去のことを自分はずっと怒っていたこと。ソフィアの隣に座ったハロルドは、静かに聞いていた。
「……婚約はしたくないけれど、親と縁を切ることもしたくないと思ってしまうのです。」
「ソフィア。」
「はい?」
苦しそうな表情を浮かべたハロルドは、ソフィアに告げた。
「ソフィア。俺と結婚しよう。」
一体何を聞いていたんだ、とソフィアが言おうとしたが、その前にハロルドは次の言葉を続けた。
「ソフィアが、結婚したくないのは分かっている。だけど、俺と結婚すれば、もう縁談も来ないし、親との縁も切らなくていい。俺は絶対にソフィアが嫌がることをしないし、親と連絡を取りたくないなら、俺が窓口になるよ。だから……。」
そんなソフィアだけが得する結婚なんて可笑しい、と言いたいのに、必死な顔をしているハロルドの顔を見ていたら、何故だが断る気持ちが失せてしまう。
「……もう好きにして下さい。」
プロポーズの言葉としては、最低の返事が、勝手に口から洩れていた。だが、それを聞いたハロルドは、パァッと目を輝かせ、嬉しそうに顔を綻ばせ、ソフィアの両手をぎゅっと握った。
「ありがとう。ソフィア、君が俺のことを想っていないのは分かっている。だが、君が長い生涯を終えたとき、結婚して良かったと思えるようずっと口説き続けるよ。」
こんな気障な言葉も、美丈夫のハロルドが言えばよく似合っている。口説かれることも、いつの間にやらあまり嫌ではなくなっていた。
「ハロルド。」
「うん?」
「……お腹すきました。」
ソフィアがこう言えば、ハロルドはいそいそとミルフィーユが美味しいお店に案内してくれる。ハロルドの隣が少しずつ居心地良くなっていく。
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