内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<1日目・夜間レク>【3】

 体育館から持ち場に向かった真人は、聖那と他の男子と一階の理科室へと隠れた。


 本当は健也も一緒だったのだが、『リアル人生デスゲーム』の指示の為、誰もいない図書室へと向かった。当然の事ながらここにいる聖那以外の男子たちはそれを知らない。


 一人の男子生徒が周囲を見回し、首を傾げた。

 「なあ、健也は?」


 真人が誤魔化す。

 「クソしてくるって言ってから少し遅れるんじゃね?」


 「ははは!」高らかに笑う。「カレー食ってクソってウケる」


 適当に誤魔化した。きっと大幅に遅れてくるはずだから。

 「そうだな、アイツのクソは長いから……」


 ボソッと耳元で聖那が囁く。

 「もっとマシなこと言えないのかよ。クソって……後で怒られても知らないぞ」


 「しゃあねえじゃん。他に思いつかなかったんだから。それともオナニーもセットでクソするからマジで遅れるって付け加えれば良かったか?」


 「バカかおまえ」

 

 「クソオナ流行ると思うか?」


 「流行るわけないじゃん。てか……こんな状況でよくそんな冗談言えるな」


 「気を紛らわしたいだけだよ……」






・・・・・・






 誰もいない図書室のドアを少し開いて、息を潜めながら廊下を窺う健也はかなり緊張していた。


 嫌な汗で手のひらが湿っぽくなる。


 もし、大声出されて、失敗したら、灰になる。


 怖い……最初っからログインしなければ良かった……


 足音と悲鳴が聞こえた。

 『もうヤダ~、怖いよぉ~』


 戸の隙間から覗く。美弥子じゃない。


 何人か通過して、しばらく時間が経った時、美弥子が図書室のドアの前を通過しようとした。


 緊張を孕ませた手で、勢いよく戸を開け、美弥子の腕を掴んだ。


 「きゃ!」


 健也は図書室に引き寄せ、戸を閉めて、美弥子の上に覆い被さり、健也は美弥子の口を覆った。

 「……」


 健也の額から緊張の汗が流れ、床に滴り落ちた。


 「なあ、こうゆうシチュエーションって興奮すると思わね? お前の身体たまんないんだよ!」


 もう“ヤケクソ”だった。


 容赦なくスカートの中に手を入れ、下着の中に指先を入れ、性器を愛撫した。すると美弥子は顔を紅潮させ、声を漏らした。


 「あ!」


 「気持ちいいのか!? この変態女!」


 「興奮しちゃう。健也君も興奮して汗かいてるの?」


 「ああ、そうだ」興奮の汗じゃない、緊張の汗だ。「犯すぞコラ」


 「健也君がそんなにワルっぽいって知らなかった。単なるゲームオタクだと思っていたのに」


 「そんなわけないだろ?」その通りだ、単なるゲームオタクだよ。


 「この学校の男子って真面目すぎてつまんないんだもん。超刺激的で最高。お手並み拝見させてもらうよ」


 「え?」


 突然、ナニをグイッと鷲掴みにされ、驚いて身を強張らせた健也を美弥子は変な目で見る。

 「興奮してないじゃん……意味わかんない。ふにゃチンじゃん……」


 (マズい! 緊張して起たない!)


 「あの……」一瞬素に戻ってしまった。


 (どうする? もう、どうにでもなれ! おっぱいでも見りゃ興奮するだろう!)


 美弥子のトップスを捲りあげた。ブラジャーをずり上げた瞬間、豊かな乳房が顔を出した。荒っぽく胸を揉んでいるうちに、なんとか下半身が熱くなるのを感じたので、ジーンズとトランスを下げた。


 指示を実行した健也は持ち場の理科室へと向かい、戸を開けた。


 無事に戻ってきた健也に、真人と聖那が駆け寄った。


 「健也!」放心状態の健也の肩を揺する真人。「大丈夫か!?」


 「ああ、なんとかね……疲れたよ」


 一人の男子生徒が健也に顔を向けた。

 「カレー味のウンコが出たか?」


 「は?」


 小声で真人が言った。

 「遅れる理由にトイレでクソしてるって言ったんだよ、わりぃ。いい理由が思いつかなかった」


 「最悪……」


 ドアの手前で覆面を被りスタンバイしてる男子が、人差し指を口に当てた。

 「はい、静かに。最後の一人です。思いっきり驚かせちゃいましょう」


 三人もドアの前に移動し、理科室を女子が通過する直前、廊下に飛び出した。必要以上に大きな声を出して女子を驚かせる。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 女子は悲鳴を上げた。

 「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 叫びたかったんだ―――


 だって四人いるうち、オレたちは誰かか、死ぬって理解していたから。


 一度始めたらやめられない。


 何度も思う、ログインしなきゃよかったって―――






・・・・・・・・・






 最後の女子を驚かせた後、聖那がスマートフォンの画面を見つめ、ルーレットを回した。


 出た数字は<7>


 駒が7マス移動した停止位置のマスの色は変わらず白。


 【『小心者』


 ゴールまで43マス


 所持金0


 身体状況 健康】


 【白マスです。自分の順番が巡ってくるまで暫しお待ちを】



 「よかった」聖那は安堵した。「心臓に悪いよ」

 

 聖那が終えると、5番手の『金の亡者』がルーレットを回し2マス進んで、流れ星のマスに止まった。


 スマートフォンの画面を凝視する真人が焦りを感じた。

 「ヤバい流れ星のマスだ! 一気に引き離される!」



 【『金の亡者』


 ゴールまで49マス


 所持金 3万円】


 【流れ星の如くひとっとび!】


 最大20マス移動する事ができます。


 行きつく先のマスの色が変化することはありません。


 自分の順番が巡ってくるまでのんびりと待ちましょう。

 【END】


 ルーレットを回した『金の亡者』が出した数字は<10>


 普通のルーレットの最大の数だけ駒が進み停止した。マスの色は変わらず、表示された通り白いままだった。


 10マス程度なら追いつくことも、追い抜くことも可能なので安堵した。


 そのとき、体育教員の声が響いた。

 「じゃあ、みんなお疲れ様。楽しかったね。今度は花火でもしようか」


 口々に“またやろうね”と会話する生徒の声が聞こえる中、四人は暗い表情を浮かべた。


 本当は楽しかったはずの夜間レクが『リアル人生ゲーム』のせいで、全然楽しくなかった。


 真人が三人に真剣な面持ちを向ける。

 「全員助かる方法ってないのかな? 上手く協力するとか」


 聖那が首を傾げた。

 「さあね……もう自分のことでいっぱいいっぱいだよ……」


 健也が言った。

 「取敢えず、真人のウチに行こうぜ」


 直美の手を引いた真人は、健也と聖那と共に家路へと歩いた―――



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