内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<1日目・夜間レク>【1】
教室に集まった夜間レクを楽しみしていた生徒達は盛り上がっていた。実際、真人たちも楽しみにしていたのだが、いまはそれどころではない。だが、直接怖い思いを体験していない健也と聖那も、真人と直美の偶然に対し、恐怖を感じていたが、ふたりほどではなかった。
このゲームの恐ろしさに着替えなんかどうでもよかった制服姿の真美が、達也と聖那に言った。
「あたし怖いんだよ。このゲームはヤバいよ」
「俺らはまだ体験してないから。だけど、ゲームに表示されていたとおり、妹のパンツが水玉模様だったのはびっくりだったけど」
「ハンドルネームにはビビったけど、とりあえず……もう少し様子を見よう」
直美が言った。
「ログアウトできないんだから、様子見るしかないじゃん……」
「まあそうだけど」
真人が言った。
「初めは単なるゲームだと思っていたけど、何かが違うんだ。ゲームに表示されたことが偶然に起きてると思いたいけど、表示された内容は具現化するとしか思えない。ゲームのタイトルどおりリアルにね」
健也が言った。
「だとしたら、殺せとか表示されたらマジで殺すわけ? あり得ないじゃん」
「そうだけど……嫌な予感がする」
「たしかにいい予感はしないけどね」
担任の女教師と体育教師が教室内に入ってきた。騒がしい教室が静かになると、教師は教壇に上がり、男子と女子の役割分担を説明する。
担任が言った。
「はい、女子は夕食のカレーライスを先生と一緒に作りましょう」
大人数の定番メニューと言えば、カレーライス。真人の昨夜の夕食もカレー、翌日 今日の朝食もカレー、で、またカレー。そろそろ飽きる頃だが、食事なんてどうでもよく思えた。
担任が体育教員に後を任せた。
「じゃあ、先生、男子はお願いしますね」
体育教員は返事する。
「はい、任せてください」
慎司が真人に言った。
「今は夜間レクを楽しもうぜ」
「ああ」
真人はスマートフォンの画面を見る。自分を待つルーレットが静止している。テンション高めの体育教師がくだらない話をして生徒達を盛り上げる中、真人はルーレットを回した。
示された数字は<4>
駒が4マス進み、停止した位置がピンク色に染まり、ハートが現れた。
【恋をしましょう!
『獣医師』さんは禁断の恋に走ります。
どうしよう! 隣に座る同性にドキドキです!
最高のディープキスは身も心もときめきますね。
【END】
「なんだこりゃ……」
隣に座っていた健也が真人のスマートフォンの画面を覗いて蒼ざめた。「ええ!? ムリ、ムリ!」と、真剣な目の真人に襟首を引き寄せられ、悲鳴を上げた。「いや、いやだ! やめろ! お前ら、このゲームに洗脳されてるよ! センセー! 助けてー!」
ふたりを見た体育教師は目を見開いた。真人が健也に、舌まで絡めた濃厚なキスをしていたのだから驚くのも無理はない。
真人の彼女である直美も、何も知らない他の生徒もあんぐりと口を開け、二人を凝視していた。
慎司は「うそでしょ……」と言って目を逸らし、聖那も唖然とした。
手足をじたばたさせる健也を押し倒し、キスし続ける真人を体育教師が羽交い絞めにし、引き離した。
「お、お前、なにやってるんだ!? 彼女がいながら、そっちに走るとは……先生、ビックリだぞ!」
ぐしぐしと腕で口を拭いた真人は涙目で撤回する。
「勘違いすんな!」
健也は怒った。
「きもっちわりぃ! 何しやがる! バカか!」
ふたりは、口を漱ぐために「トイレ!」と声を張って、教室から出ていった。
状況が理解できない体育教師は、戸惑いながら、男子の仕事内容の説明を始める。
「あ~、男同士のキスが流行ってるのかな? ユーチューブでもふざけ合ってる学生を目にするしね。あははは……。でも先生にはしないでくれよ……さてと、男子は女子をびっくりさせちゃおう。肝試しのセッティングだ」
聖那が慎司に小声で言った。
「なんかさ、一昔前のカップル成立番組みたいじゃね?」
「確かに、先生が言うと余計そう感じるよな」
男子一同は教室を出て、一階の体育館へと移動した。日が落ちて暗くなった校内の廊下は、小細工なんか必要ないくらい不気味だ。
ちょっとでも音を立てれば、臆病な女子は悲鳴を上げるはずだ。それを考えると、中年の体育教師ではなくてもワクワクするのだろう。それが男のスケベ心なのかもしれないが、聖那と慎司以外の男子生徒の殆どがやる気満々だった。
一同が体育館に移動した頃、男子トイレで口を漱ぎ終えた真人はスマートフォンの画面を見て、二番手の直美の指示を確認していた。
【『食いしん坊』
ゴールまで43マス
所持金0
身体状況 切り傷】
【お金を稼ぎましょう!】
みんな不用心ですね。鞄が放置されています。
『食いしん坊』さんは所持金ゼロ円。
金欠だから楽してお金を得る方法を思いつきました。
5千円ねこばばしてください。
【END】
健也が眉をしかめた。
「稼ぐんじゃなくて、泥棒じゃんよ! オレたちのバカげたキスとはわけが違う! マジでやるのかよ!?」
「仕方ないじゃん。ゲームが終わり次第、返せばいい」
「だったら言わせてもらうけど、3着以降は人生頂きますってことは、オレらのうち二人死ぬってことだろ? 他に二人のギャンブラーもいるんだ。馬鹿げてるよ」
「そうかもしんないけど……怖いんだよ。表示されてる事が見事に当たるんだ、嫌なことも良いことも」
一瞬呆れ顔を見せたが、真摯な面持ちを向けて話し出した。
「オレは悪乗りで妹のスカートを捲った。それがたまたまゲームに表示されていたように水玉模様だっただけだ。水玉模様の下着つけてる女子って多いし、実際元カノもそうだった。
お前の母さんが二泊旅行に行くって表示されてたのも偶然。1万円のおこずかいは、自分がいない間飯代に困らないように、最初っから渡す気だったのかもしれない。
自分が親なら、子供を自宅に置いて旅行する際、必ず飯代置いてから行くだろ?
それが珍しいことに息子が自分に味噌汁を作ってくれたから、おこずかいとして大袈裟に言ってしまった可能性もあるんじゃね?
みんなそうだよ。詐欺系の占いと一緒だ。確率の問題だよ。それを当たっただの予知しただの、馬鹿らしい。だから洗脳されてるって言ったんだ。たしかにこのゲームは怖いけど、たまたまだ」
「そうなのかな?」
「だいたいにオレは最初っから賞金目当てじゃなくて、単なるゲーム目当ててログインしてるし、ホラーゲームは好きだけど、オカルト話は信じないタイプだからね」
「直美も不安がってる」
「だから、考えすぎって」
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