第2話




「トニー。久しぶりじゃない。」




「ああ。エミリーも元気そうだな。」




 トニーも隣にいる同僚も隊服を身に付けており、巡回中だったようだ。アランの部下となるので、その同僚のことも見覚えがあり、相手も「ターナー副団長の奥様、いつもお世話になっております。」と頭を下げた。





「まさかエミリーが奥様なんてな。」




 トニーは揶揄うように嫌みっぽく、そう言った。



 トニーは幼い頃は大切な遊び相手で、お互いによく悪戯もしていた。だが、学園を卒業するとトニーは騎士学校へ行き、エミリーは淑女学校へと進み、それから会うことは殆ど無くなった。


 それから、エミリーが王城内の託児所に務めることになり、再び顔を合わせるようになった・・・と言っても、会えば挨拶や世間話をする程度の関係だが。


 その後、エミリーはアランと出会い、エミリーのアタックの末、交際が始まった。アランとトニーが同じ騎士団だと知ったのは随分後のことだった。





「何よ。料理は上手なのよ。」




「ふうん。」




「副団長も奥様の料理をよく褒めてらっしゃいますよ。」



 トニーの方から言ってきたのに、刺々しい態度を取られ、エミリーは戸惑った。同僚がフォローを入れてくれたが、エミリーは居心地が悪くなり、「では、そろそろ。」と離れようとした。だが。






「そういえば、ターナー副団長、栄転するんだったな。おめでとう。」




「え、ええ。ありがとう。」



 刺々しい態度から一変して、お祝いの言葉を掛けられ、エミリーは益々混乱した。しかし、トニーの次の言葉で、エミリーは更に混乱の渦に落とされた。







「単身赴任なんてな。副団長も、エミリーも大変だな。」





「え・・・。」



 思わず声を漏らしたが、トニーは気にする様子はない。





「副団長、言ってたよな。単身赴任するんだって。」




「あ、ああ。」



 同僚も、トニーの変化に戸惑っているようだが、話を振られ頷いている。




「案外、一人暮らし気分で楽しみにしてるのかもな。」



 ケラケラと笑うケニーは「だから、副団長が単身赴任したら・・・。」と言葉を続けるが、エミリーの頭には入ってこない。挨拶もそこそこに、ふらふらとエミリーは家に向かった。頭は真っ白のまま、気を抜いたら涙が溢れ落ちそうだった。

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