第13話

「貴女って人は、本当に、ウィリアム様のことになると駄目ね。」




 カレンは、一連の経緯をケリーへ白状すると、心底呆れられてしまった。





「・・・ごめんなさい。だけど、どうしてケリーは、その、私が・・・ウィリアムのこと好きだって気付いていたの?」




 学生時代から、ケリーにはウィリアムの愚痴を聞いてもらっていた。その度に大嫌い、と悪態をついていたのに。自分自身でも気付いていない気持ちにケリーが気付いていたことが不思議だった。






「当たり前じゃない。」



 

 ケリーはまた呆れたように言った。






「貴女、いつもウィリアム様の話ばかりだったでしょう。」






◇◇◇




「カレン!」



 ケリーとお茶をしていたカフェに、ウィリアムが現れた。




「ウィリアム。どうして?」





「大事な婚約者を迎えに来たんだよ。」




 ウィリアムはまたウィンクをして、たまたま近くにいた給仕の女性をときめかせていた。それを見たカレンは面白くないと、顔を顰めた。




「ほら、カレン。帰りなさい。」




「え、ケリーも一緒に。」




 自分だけ先に帰るのは忍びなくて、ケリーを誘うと、ウィリアムが笑って制止した。



「ケリー嬢にも、お迎え来ているよ。」



「そうなの・・・って、え?」



 ウィリアムの後ろから現れたのは、なんとヘンリー王太子だった。こんなカフェに、普通であれば王族の者が現れる訳はない。お忍び姿のヘンリー王太子は愛しさを隠さず、優しくケリーの手を取った。そんな王太子をケリーはうっとりと見つめていた。カフェの個室は、二人だけの空気となっており、カレンは二人の関係性を理解した。




「ほら、行こう。」



 二人でお茶したいみたいだから、とウィリアムに促され、カレンはそそくさとカフェを出た。




◇◇◇




「知らなかったのは私だけなのね。」



 帰りの馬車の中、カレンは不貞腐れていた。



「俺は王太子付きだから知っていただけだよ。」



 ウィリアムは頭を撫でて、カレンを宥めた。カレンも分かってはいるのだ。王族との婚姻なんて、貴族間のそれ以上に制約があるはずだと。だが、やはり自分だけ仲間はずれのようで寂しかった。




「俺が、ケリー嬢にカレンのことを聞きに行けたのも殿下のお陰なんだ。」



「え・・・。」



 つまり、ウィリアムとカレンのあれこれを、ヘンリー王太子にはまるっと知られている、ということだ。カレンは恥ずかしさから顔を赤らめた。




「照れているカレン、可愛い。」



 ウィリアムはカレンの眼鏡を取り上げたが、それは幼い頃の意地悪とは違う。顔中に口づけを落とされ、カレンは顔を熱くさせた。馬車の中は二人きりとはいえ、外でこんなことをしていると思うと背徳感に苛まれた。最近のウィリアムはブレーキが利きにくい。




「ちょっ・・・ウィリアム!」




 カレンの抗議を受け、ウィリアムは漸く止めてくれたが、代わりにきつく抱き寄せられた。



「はぁ~早く結婚したいな。他の男に取られたくない。」



「それは・・・。」



 私も、とカレンは小声で呟いた。先程のカフェでも、給仕がウィリアムに見惚れていた。他に取られる恐怖はカレンだって感じている。カレンのそんな想いをウィリアムは喜んで受け取った。




「カレン、好きだよ。」


 笑顔で告げられたウィリアムの思いに、カレンは頷き、小さく同じ言葉を返した。ウィリアムはそれだけで、幸福感に包まれていた。







〈おしまい〉




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真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。 たまこ @tamako25

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