第8話 勇者が選ばれた理由

「ただいま帰りましたわ」

 と、お土産に捕縛した四天王を連れて凱旋する勇者一行。

「おお!素晴らしい!さすがは勇者殿」

 この快挙を聞いて、性格にかなり問題はあるが実力は本物だと王様は確信した。

 性格にかなり問題はあるが。

 戦勝を祝ってささやかながら祝宴が開かれた。

 

「しかし、たった一日で付近の魔物の拠点を封じ、四天王まで捕まえるとは、勇者様は向こうの世界でどのような訓練を積まれておられたのですか?」

「ふふ、内緒です」

 と、可愛らしく笑う吉弘嬢。

 何も知らない人間が見れば、その可憐さに『守ってあげたい』などという見当違いな感想を抱くだろうが、実際に戦闘に参加した人間や亜人からすれば『情報を流すわけないじゃないですか。おバカさんですね』という心情が聞こえる気がする。


「なあ、ソーカよぉ。お前があの勇者を呼んだんだよなぁ?」

 ワーボアの肉にかじりつきながらキスミが問う。

「はい。選んだというか選ばされたというか」

「なんだそりゃ?」

 良くわからない説明にアキツラも耳を傾ける。

「そうですね。まあ、かいつまんで説明しますと…」


  ※


 賢者ソーカが勇者を探すため異世界に来た時、そのあまりにも巨大な建物が乱立する様を見て驚いた。

 隠形術で隠れている自分は見えないくらい魔力を感じないのに、非常に頑丈で馬よりも速く駆ける乗り物に騎乗している。

「ここは、騎士団の訓練場なのですか?」

 と、思ったが、試しに攻撃魔法を展開しても誰も警戒すらしない。

 これが、元の世界ならゴブリンは臭いで自分を感知するだろうし、コボルトのメイジなら即座に防禦魔法を張っているだろう。

 中には戦場帰りのように疲弊した顔の兵士らしき人間もいたが、戦闘力はそこまで高くはなさそうだった。

『どうやら、この世界はハズレのようですね』

 強力な勇者を求めるソーカは、そう結論付けた。

 人はたくさんいるが、一人一人の連度が低い。

 それ以上に、装備が貧弱すぎる。

 誰もプレートメイルはおろか皮鎧もつけていなければ、武器すら持っていない。

 これでは魔物に奇襲を受けたら、その時点で全滅必至である。


「とりあえずは、この世界の文字を学び情報収集をしましょうか」

 そういいながら、彼女は王宮の図書館並みに本が並んでいる建物に入る。

 何と書かれているのかは分からないが、絵が多い本が大量にあるので言葉の規則性を知るにはもってこいだと思ったのだ。

 後で知ったのだが、その建物の入り口には『漫画喫茶』と、書かれていた。


  ※


「オモシロイ…。スバラシイ…」


 そこには、漫画の面白さに憑りつかれ、72時間ぶっ通しで名作を読み続ける廃人が出来上がっていた。

 騎士物語とか吟遊詩人の語る恋物語よりも刺激的で悲劇も有り、喜劇もあり、ここまで娯楽にあふれた世界を彼女は知らなかった。

 しかも、読書をしていても敵襲がないというのが一番最高だった。

 ここまで集中して読書が出来たのは初めてだったかもしれない。


 そのため寝る時間も惜しんでこの世界の漫画やそれに付随する知識は十分についた。


 ただ、ここで一つ問題があった。


「この世界で強者を探すには、不意打ちを回避できるかどうかで試せば良いのですね」


 この世界における彼女の知識は、かなり偏っていたものになったのであった。



 かなりな『逆境』状態にある彼女の国と一致するタイトルの漫画を読んでいた際に、味方を探す方法として『七人の侍』という映画の『物陰から不意打ちして対応できるかどうかで仲間の実力を見極める』というシーンに感化された彼女は、世界中の強そうな人間に『隠形状態から幻影のトラックをぶつけて回避できるか試す』

『足元に現れた転移魔方陣をコンマ1秒で回避できるか試す』

『姿が見えない状態で攻撃魔法を発動させて反応できるか試す』

 などを行った。


 そのため『紛争地帯に突如謎の2トントラックが現れたと兵士たちが証言』したり、『ボクシングの試合中に床から謎の模様が現れた』などの都市伝説が生まれたのだが、彼女は知る由もなかった。

 そして、そんな無茶苦茶な要望に適合できる変人など見つかるはずもないのであった。


「やっぱり、今の世の中にはサムライと呼ばれる強者はいないのですかねぇ」

 ため息交じりに落胆する中、とりあえずガタイの良さそうな大男に幻影トラックをぶつけてみようとしたとき


「!」


 ふいに物凄い殺意を感じてソーカは飛び跳ねた。


 反撃用に攻撃魔法を展開しようとしたが、目の前には誰もいない。

『どこにいきましたか?』

 と、周囲を見回したとき、正確にこちらに向けて武器らしきものを構えている少女がいた。

 清楚そうな立ち姿に、ドラゴンのような殺気。鋭くこちらを見つめる瞳はバジリスクのようだった。

 その視線を見た瞬間ソーカは

「あ、これは死にましたね(彼女こそ勇者にふさわしい)」

 と言った。


  ※


「これが、勇者様と私の出会いでした」

「え!?なんで賢者殿を見つけられたかの説明は?」

 アキツラが問う。

「ああ、それはなんか勇者様は『大金持ち』と呼ばれる職業の方の娘らしく、常に身柄や命を狙われていたから『視線や、微妙な空気の変化で害を与えようとする人間の気配は分かる』と言っていましたよ」

 との答えだった。

 何でもジュウコウというものを向けられたら終わりなので、それよりも先に反応しないと死んでしまう世界に生きているとの事だった。

 なお、その後に転移して神からスキルを授かることになるのだが、そこでかなりの時間がかかり、互いにかなり疲弊した状態で「もう二度とこんなのを連れてくるな」と言われて今に至るのだと言う。


 …もしかして、呼び出してはいけない類の人間を呼び出したのではないか?

 とアキツラとキスミは思ったが、どうせ魔王に滅ぼされるくらいなら、どちらが勝っても同じだと思い、酒を飲んで忘れる事にした。


 

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