第9話 お嬢様のささやかなお願い

 魔族の拠点をつぶし、四天王の一体を捕らえるという快挙を成し遂げた吉弘嬢に人間は歓喜の声で迎えた。

「よくぞやった。勇者よ」

 立場上、そう言わなければならない王様は、複雑そうな顔で誉めたたえた。

「いえいえ、将来の私の土地を住みやすくしただけですから」

 と謙遜する吉弘嬢に

『国家反逆罪適用できないかな』と少しだけ思う王であった。


 なお賢者とシーフにドワーフが、勇者の話に花を咲かせているとき、かの勇者は

「金庫のレンタル代が一日に6つで少しお勉強いたしまして30万。車両運搬具の使用代と修理費が100万円。これは必要経費ですが、また使うかも知れないので後払いで結構ですわ。そして玉代が…」

 と、ペンを走らせ、国の経理担当が泡を吹いて卒倒しているのが見えたが、

『難しいお話はお偉いさんに任せて、私たちは食事を楽しみましょう』

 というソーカの提案により見なかった事にした。


  ※


「さて、宴はそろそろ終わりにして次の商談に入りましょう」

 と、お嬢様はにこやかな顔で言った。


「国内は制圧したとして、次は魔王城を潰しましょうか?」

 最短工程で仕事を終わらせようとする吉弘嬢。だが、そこで待ったがかかった。

「いえ、そこに行くには右回りで迂回しないといけないんです」

 と、ソーカが地図を広げて言う。

 いびつな円形状の右下が今いる城だとすると、円の中心が魔王城である。

 最短距離を目指すなら北西に進めばよいのだが…

「ああ、この国は北西の海岸線以外は全て嶮しい山と谷に囲まれておってな。人間も魔族も行き来が出来ないんじゃよ」

 と、海の近くの幅3m程度の長い崖道を指す。 

 元来サイキ国は南と東を海に囲まれ、西と北は険しい山と谷が大部分を占める他国から侵入しにくい土地であった。

 そのため魔王の侵攻に最後まで残った、というか最後まで放置されていたのだが、逆に言えばこちらから攻めるのも大変な土地となる。


「東にある海岸線を伝って北上すると、アズサという峠の砦がある」


 崖のような海岸線には10kmの間に20もの砦が築かれ、人類側の反撃をあざ笑うかのように厳重な防御態勢が出来ている。

「狭い崖道は大勢では通れず、軍隊も派遣できぬ」

 そう嘆息する王。

「そこで、勇者よ。おぬしたちの出番じゃ」

 4人なら道の狭さも問題になるまい。

 と、ブラック企業の社長なら言いそうな無茶な指令を出し

「さあ、この王家に伝わる魔法の剣を手に、数ある砦を攻め落とし、北のツの国を奪還してまいれ!!!」

 と、偉そうに言う王様。

 そのあんまりにも理不尽というか無理な命令に異世界人3人は

『こいつボコボコにして、簀巻いてから魔王軍に放り込んでやろうか』と思った。

 だが、吉弘嬢は


「あ!そんなものより欲しいものがあるのですが」


 と、秘蔵の剣をそんなもの呼ばわりして、別の提案をする。

 その言葉に、こめかみをひくつかせながら王は

「ほほう、勇者殿は何をお望みかな?」

 と精一杯のスマイルで答えると


「私、北西にある山や谷の土地の所有権を頂きたいですの」

 と、笑顔で言った。

 なお使い道がないとはいえ、この国の半分の国土に相当する。

 

 そんな土地を手に入れて何をするのか気にはなったが、嫌な予感がした王様は

「それはちょっと…」

 と、ためらうそぶりを見せたが

「私の【私物召喚】は、土地の所有者から強奪しても効果があるのかしら?」

 と、ほぼ95%脅迫めいた言葉を聞いて、王様は何の役にも立たない土地を手放すことにした。

 吉弘嬢は『防衛資金で払いきれなかった分の借金の方に差し押さえる』という意味だったと後で弁解していたが、どう見ても『ころしてでもうばいとる』ようにしか見えなかった。と勇者の仲間たちは語った。

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