第7話 四天王登場。お嬢様、負けイベントに遭遇する
他にも点在する敵の拠点を封印し、城へ帰る吉弘嬢たち勇者一行。
「今もまだ、レッドキャップたちが斧で扉を叩く音が聞こえる気がする…」
「あの血を吐くような叫び声が、頭から離れんわい」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
三者三葉の思いを抱えながら、城へ帰る勇者たち。
そこへ、
「お前たちか。勇者一行と言うのは」
ただ者ではない雰囲気を漂わせた異形の魔族が現れたのであった。
※
「あ、」
はい、と答える前に目の前の魔族は吉弘嬢を見て
「おい、おまえか?この国に召還された勇者って奴は」
と尋ねる。
「はい。私この国と契約を結んでおります、吉弘綾香と申します。」
優雅なしぐさで吉弘は一礼した。
「ああ?別におまえの名なんて聞いてねぇよ」
小馬鹿にしたように魔族は言う。
「お前らは、これからお前たちを殺す、このリグ様の名だけ覚えときゃいいんだよ」
その言葉を聞いて、ソーカは恐怖で尻もちをつき、そのまま後ずさる。
「あわわ…」
「どうしましたの?ソーカ様?」
目の前の化け物。それは賢者と言われる彼女でも今まで遭遇した事は無かった。
だが、名前だけは聞いたことはあった。
魔王軍の中でも凶悪な4体の魔族の1人。
その名も
「四天王の一体!疾風のリグですよ!」
その言葉に目の前の魔族はにやりと笑う。
「へぇ、よく知ってるじゃねぇか」
それを聞いてシーフのキスミが、思い出したように吉弘嬢に耳打ちする。
「まずいぞ。勇者」
「あら?どうしてかしら?」
するとドワーフのアキツラも。
「あれは、最近他の四天王を倒して魔王軍の四天王になったと言われている奴じゃ。」
魔王軍と言うのはそこらにいる野良モンスターとは別に、人間の軍隊のように組織だって動く一団がいる。
レッドキャップなどとは比べ物にならないほど強く、たった一団で人間の国にだって勝利したと言われる実力の持ち主。魔族。
その中でも特に抜きんでた存在が四天王なのである。
「その通り!俺は新四天王にして未来の魔王候補!疾風のリグ!!!」
自分を強者として認め、怯える人間たちの姿を見るのがこの四天王はとても好きだった。
力は化け物。頭脳は子供。
見た目はりりしく、美しさすら感じるが、中身はタチの悪い小悪魔のような化け物。世界中の人類の強者を鼻歌交じりに処分する実力者だった。
今回も勇者が現れたと知り、禁呪を使って瞬間移動してきたのだ。
「まずいぞ。あの化け物はノツ国の英雄ソーダすら倒したと言うではないか」
「LV50超えの英雄と仲間が全滅させられたような奴、勝てるわけがないやんか」
先ほどのレッドキャップやゴブリンが味わった絶望感を、今度はこちらが味わう番だった。
※
リグは目にもとまらぬ速さで勇者たちの視界から消え、一番防御力の高そうなアキツラの胴を素手で貫く。
「ひっ!」
智慧はあっても戦闘力の無い賢者は最後のお楽しみとばかりに、彼女の前にドワーフの体を投げ捨てると、無駄だと分かりながら逃げ出そうとするシーフを後ろから追いかけ、振り向いた瞬間に「こっちだよ。トロい奴だな」と前に立ちふさがる。
恐怖で地面にへたり込むシーフの首を刎ねると、後ろで泣きながら剣を刺そうとするお嬢様のような勇者の顔に首を投げつける。
「あーあ、お前が弱いせいで仲間が二人も死んじまったぜ」
そういいながら、賢者に向かって「なあ」と声をかける。
そして、折れた剣でなおも立ち向かう勇者を右手一本で両断する。
「さて、頼みの勇者様も死んだから、最後はおまえの番だなぁ」
猫が獲物を甚振るように、笑みを浮かべながら恐怖で震える最後の獲物を狩る。
……そんなプランがリグの頭には出来上がっていた。しかし
「でも、そんな方が何で単独でいらっしゃるのかしら?」
そんな吉弘嬢の言葉が、彼の意識を現実に戻す。
「そ、そうですよ。こんな序盤で出くわしていい相手じゃありません。勝てるわけがありませんよ。ゲームならクソゲー認定されて炎上必至ですよ。何でこんな大物がここに…」
と、恐怖で歯をガチガチ鳴らしながらソーカも同意する。
その顔が気に入ったのか、疾風のリグは
「そんなの簡単じゃねぇか」
と、言いながら、思い切り左手を振る。
真空波でも生じたのか、少し離れた木が真っ二つに割れ、倒れる。
「俺はまどろっこしいのは嫌いなんだよ。脅威の種は早めに摘む。言うだろ『先手必『パン』勝』…」
ってな。と言い終わる前に疾風のリグは自分の右足から力が抜けるのを感じた。
「なんだこ」
りゃ。と言い終わる前に、今度は左足にも力が入らない。
見れば、両足から血が流れていた。
何故血が流れているかと言うと、太ももに穴が開いていたからだ。
そのため、筋肉に力が入らず、紐の切れた操り人形のように、地面に倒れる羽目になったらしい。
分かってみれば簡単な話である。
だが、いったい何者がこの自分に負傷させることができたのか?
地面に倒れながらリグは考える。
目の前の勇者は特に武器らしきものを持っていない。
ただ、変わった筒を持っているだけだ。と、彼は思った。
「で、その疾風のリグ様がいったい何のご用なのですか?」
片手に拳銃を取り寄せていた吉弘嬢は丁寧な言葉でお尋ねになった。
さすがの四天王も見た事もない鉄砲と、その玉の脅威は認識できなかったらしい。
あまりの展開に言葉を出せないでいると、吉弘嬢は
「なるほど。つまりアナタは特使とか使者ではなく、策敵兵が間抜けにも姿を現し、名乗りをあげただけと…」
状況は完全に把握した。
そんな感じでお嬢様はうなずいて、地べたに這いつくばる四天王(笑)に語り掛ける。
可憐な姿と上品で丁寧な言葉使いから、勝手に『レベルの低い格下』と思っていただけに、リグの頭は現実に追いつかない。
「使者だったら、多少の暴言を吐いても外交問題にするだけで、危害を加える気はなかったのですが、幹部の方がのこのこと出向いて下さったのでしたら、それなりの利用価値が有りそうですわね」
と、吉弘嬢は言った。
強い四天王が、その力の片鱗を見せるため、気まぐれで登場する。
RPGなどでよくある演出だ。
だが、彼にとって不幸だったのは、今回は相手が悪魔並、いやそれ以上に強かった事である。
なお、最初に驚いた様子は全部演技だった。
まじめに世界を賭けて戦う場合、これから倒すべき相手の情報を知らずにいるはずがない。
吉弘嬢は雑魚モンスター含めて、魔王や側近、厄介なモンスターの情報をソーカから聞いており、その対策はすでに考えていた。
特にリグは『実力はあるが、調子に乗りやすく、油断しやすい相手』として、遭遇確率は高いと判断されていた。
それゆえに賢者たちはなるべく怖がったふりをして情報を引き出し、吉弘嬢は周囲にワイヤーロープの防壁を設置しながら応対をする予定だった。
ただ、遠距離攻撃ができると言うのは未知の情報だったため、急遽予定を変更して無力化することにしたのだ。
という事を親切にも彼女はリグに教えてあげた。
「クソがああああああ!!!!」
地べたに這いつくばる格好となったリグは雄たけびを上げる。
こんなの認められない。
何故自分が人間ごときに倒れ伏さなければならないのか?
リグは両手を振るって吉弘嬢を切り裂こうとしたが
「【私物取寄;強化ガラス(厚さ15cm)】」
とつぶやいただけで、透明な壁が現れを阻む。
さらには、ホビットと賢者が
「ファイアボール!」
「ホーリーライト!」
と援護攻撃をする。
「はっ!そんな貧弱な攻撃効くかよ!!!」
足が動かなくても、強者は強者。
蚊ほどにも効かない低レベルな魔法を余裕を持って食らっていると
「【私物取寄;AK4●】セミオートですわ!」
明らかにこの世界の魔法と規格が違う武器とともに、目にもとまらぬ速さで銃弾が放たれる。
「ぎゃあああああああ!!!!!!」
強力な銃弾は、装甲ごとリグの肉体がこそぎ落とさしていく。
「あーあ。私たちの攻撃で倒れていれば良かったのに…」
「相変わらず、えぐい攻撃やなー」
四天王がCERO A(全年齢対象)からCERO Zに変貌した姿を見て勇者の仲間は同情を込めて言った。
「わかった!!!参った!!!参ったよ!!!」
右腕と左耳、それに頭の一部などを銃弾で撃ち抜かれたリグはついに降参の声を上げた。
だが
ズガガガガガガガガ!!!
「なんでぇええええ!!!」
容赦なくマシンガンの銃弾はリグをおそう。
「え?だって、降参を宣言するのは貴方の自由ですけど、それを受け入れるかどうかは私の自由ですよね?」
何いってるのかしら?この方?
そんな不思議そうな顔をした吉弘嬢に、リグは遠回しに宣告された気がした。
『おまえを殺す(CV;緑川●)』と。
その目は魔王よりも冷たく、命を刈る意思に溢れていた。
ライオンに睨まれたネズミ。
それ以上の恐怖を感じた四天王は
「申し訳ありませんでしたああああああああ!!!!!」
恥も外聞もなく土下座した。
※
「このリグ、貴方様の力を見誤っておりました。あなた様に服従を誓います!!!どうか!!!どうか御慈悲を!!!」
こんな化け物、勝てるわけがない。
死にかける恐怖の中で、力の強弱を叩きこまれたリグは
こうしてあらたな所有物を手に入れたのだった。
おまけ。
「こちらの世界でもよく使うのですね『先手必勝』」
そういいながら、吉弘嬢は周りに四天王の仲間がいないか警戒しながら、仲間に語り掛ける。
「そこまで分かっていながら、どうして悠長におしゃべりなどしてせっかくの優位を潰したのかしら?」
不思議そうに吉弘嬢は言う。
自分なら、気が付かれる前に戦闘力を奪って、それから話し合いと言うのは行われるのだと思っていた。とのたまった。
「どこの蛮族の風習だよ…」
「ゴブリンですら警戒とか敵意がないか確認位はするぞ」
と、キスミとアキツラは疲れた声で言った。
「あら、こちらの国ではみなさんお優しいのですね」
可憐な少女の言葉に異世界の存在は『コイツの住んでる世界はどんな荒廃した世界なんだよ』と恐怖した。
まあ、街中を歩いていたら急に銃撃を喰らうとか、周回に参加してたら自爆テロに巻き込まれるなどという形での戦闘はこの世界にはないだろう。
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