第13話 デタラメ VS デタラメ

 吉弘嬢は相手に話し合いの意志がないのを見ると、

「【私物取寄】」

 とマシンガンを取り出した。

「吉弘流護身術16。マシンガンで一掃!」

 それは護身術じゃない。というツッコミが入るが今更である。

 吉弘嬢が取寄せたM16自動小銃は、口径約5.56mmの銃口から銃弾の玉をばらまき、土の四天王 エンジョウの足関節に直撃する。

「ふん!」

 まるでBB弾でもあたったかのように、意に介さずエンジョウは全身を続ける。

 それを見て吉弘嬢はM16を戻し

「【私物取寄】デン●ークに置いておいた、こいつをお喰らいなさいな!吉弘流護身術Eの6!」

 と、M60E6機関銃を取り出すと、地面に2脚台で固定する。

 先ほどのM16が口径約5.56mm。重量3.5kg弾数が30発だとすると、今度は口径7.62cm。重量10.5kg。弾数100発のパワーアップ版である。

 反動も大きいため、台座で銃口を固定し狙いを定めると、とりあえず改造したマガジンで1分で300発の銃弾を、貴重な車を破壊された恨みも込めて一斉にお見舞いしていた。

「ええ…」

 その轟音と破壊力に味方たちからは、ヒキ気味な声が上がる。

 だが硝煙が立ち込める中、敵の生存を確信した吉弘嬢は

「こちらが本命ですわ!」

 と、自衛隊でも採用されているパンツァーファウスト(110mm個人携帯対戦車弾)を取り出し、弾頭を発射したら次を取り出し、3つ程使い捨てる。

「きゃあ!!!!」

 その恐ろしい大音と爆風にソーカが身を伏せるが、仲間にダメージがいかないよう、左側には遮蔽用の鉄板が置かれていた。

 戦闘時でも仲間の身を按ずるお嬢様の心遣いであった。

 当然弾除けように設置されたリグはその中に入っていない。

「ハハハ!全然効かんなぁ!」

 と愉快そうに笑うエンジョウは地面に転がる石を掴むと散弾銃のように投げ飛ばす。

「ぎゃあ!!!」

 殺人的威力の石はリグのどてっぱらにいくつか被弾し、鉄板をへこませたが勇者たちにダメージは無かった。

 そうして時間を稼いだ吉弘嬢は、歩兵でも使えるように小型化された対戦車ミサイルを取り出し、次々に発射する。

「!!!!。!!!!。!!!!」

 小型の戦車なら屑鉄にできる程度の火力がダメ押しとばかりに4度響き渡り、空気を震わせた。

 目視が何とか可能な威力はあるけど低速度なミサイルが目の前の標的へ花火のように爆発していく。

「ああ、前の戦車弾はミサイルを当てるための牽制用でしたか」

 と妙な所で感心するソーカ。

 

 明らかに一個人が持っている必要のない火力である。というかさすがにこれは護身術に含まれないようだ。

 

 だが、

「あらあらあら」

 厚さ5cmの装甲の戦車でも破壊するほどの威力を持つミサイルの直撃を受けて、土の四天王は、何事もなかったかのように悠然と歩みを続けていた。

 

「特殊なバリアーを張ったり、攻撃を避けたりしているわけではないようですね」

 と、着弾まで確認していた吉弘嬢は言う。

 

 単純に頑丈な怪物。


 物理学者や兵器開発者が卒倒しそうなタフネスさで土の四天王は戦うタイプのようだ。

 動きは遅いが、非常に防御力が高く、『この世界の誰もがその歩みを止められない』という話は本当らしい。


「……マシンガンも対戦車弾もミサイルですらも効果がないとは恐ろしい硬さですわね」

 吉弘嬢は驚いた声で言う。

 その横で『それはそれとしてアンタも十分恐ろしいよ』とソーカたちが思っていると


「どうした?それでおしまいか」


 不死身の王とも呼ばれた土の四天王は失望した声で言う。


 ※


 彼は生まれ持ったこの能力でたいていの相手に勝利してきた。

 魔王に従っているのも、魔王の張った結界を破壊できなかったからで、防御力に関しては同格。戦闘力だってほとんど遜色はない存在に初めて出会ったからだ。

 彼と戦うのは楽しかったが、決着はつかなかった。

 だから、彼の下で補給など気にせず思いっきり戦う事にしたエンジョウは無類の強さを魔王の下で発揮した。

 

 今まで戦った人間には一度は好きなように攻撃をさせる。

 相手の持つ最大の攻撃を、全力で出させて、それを全て受け止める。

 そうすると、最初は闘志に燃えていた戦士たちも次第に表情が陰り、次第に絶望に包まれていくのである。


 目の前の人間のメスも、勇者などと呼ばれてはいても同じように逃げ出すだろう。

 そう思っていると


 珍しいものを見た。


 そんな目で見て、いや、これを解明したら幾らぐらいの利益になるのだろう?という商人の目で吉弘嬢はエンジョウを見ていた。


「興味深いですわね」


「ひっ!」

 初めて向けられる、圧倒的強者による観察眼に思わずエンジョウの口から悲鳴が漏れた。

 彼は知らない。人間が薬などを開発するためにモルモットなどの命を【使い捨て】にして様々な実験を作業的に行っていることなど。

 ただ、生物に対する視線ではない、魔王以上に恐ろしい何かをエンジョウは本能的に感じ取った。そして、その本能に従えば良かったのだが、

「感心している場合か!さっさと逃げるんだよ!」

 と、勇者を叱るドワーフを見て、エンジョウは理性的に

 あのようなか弱い存在に何を怯える事があるだろうか?と。


 そして彼は選択を誤った。

 

「人間の勇者よ。残念だが、貴様らの攻撃は通じぬ。戦いはこ「【スキル;私物取寄】」こで終わ…」

 話の途中で吉弘嬢はスキルを使った。

 話の腰を折られて、すこしイラついたエンジョウだが、勇者の仲間たちが怯えた目を、自分から、次第に上空の方に向けられたので、つられて上を見て、言った。




「「「「………………………………………嘘だろ」」」」





 それは山のような質量の転移であり、さすがの不死身の王も味わったことが無い攻撃だった。


 そう。この世界で領有した使い道のない山岳谷。

 その山々を、そのまま不死身の王の真上に取り寄せたのである。

『所有と領有は違うんですよ』

 もう二度とこんな言葉遊びはするんじゃない。

 と、スキルの力の源である神の抗議が聞こえた気がした。


「なっ!!!」


 10億t程度の質量が不死身の王を襲い、大地震のような地響きを上げて、そのまま下敷きにした。


 大量の土や岩が、木々や瓦礫が四天王を襲う。

「ぐおおおおおおおお!!!!!!!」


 瞬発的な衝撃なら何度も耐えた。


 ドラゴンのような巨大な生物の攻撃でもエンジョウの体はびくともしなかった。


 だが大自然との闘いは初めてだった。



  ※



「魔力を確認!生きています!!!」

 瓦礫、いや山の内部に向かって絶望的な声で賢者が叫ぶ。

「ウソだろ!この大山の下敷きになっても死ななかったっていうのかよ!」

 突如現れた大山の下でエンジョウは生きていた。

 本人自身も自分自身の頑丈さに驚いたが、逆に言えばあの出鱈目な頭の勇者でも自分は倒せなかったという事である。

 あとは、ここを出てゆっくりとあの勇者を倒すだけだ。

 魔王と同等の力を持った相手に敬意を表し、エンジョウは目の前の瓦礫をどかし始めた。しかし


 吉弘嬢はそんな絶望に浸った仲間たちに明るい声で

「みなさん。四天王さんは戦闘不能にしましたし、次の場所に参りましょう」

 と言った。


「いや!この下で生きてるってソーカが言っているじゃないか」

 アキツラが叫ぶ。

 しかし吉弘嬢は


「確かに生きておられるのかもしれませんが、ここから


 と首を傾げた。

「あ。」

 山の土とはいえ、一度根元から動かした土である。

 壁を掘って進もうとすれば、上から新しい土が崩落してくるだろう。

 ものすごいパンチで破壊しても、石は吹っ飛ばず、亀裂が入って粉々になりはするが脱出には1cm程度しか役に立たない。


 弾丸のように土を掘り進み、脱出できるのは物語やアニメの中の話である。


 ましてや相手は頑丈だが動きは緞帳な魔物だ。

 先に進めたとしても一日に1m進めばよい方だと吉弘嬢は推測した。

 そして、この山は

「3日後にまた来て、移動した分だけよその山を積みましょう」

 と、いくらでも追加される予定の山であった。


 不死身の王はこれから3日間、黙々と土を掘り、前に進み、それでも出られなくないと分かると上に登ろうとした。

 それでも日の光が見えないとなると

「出してくれ…………」

 と、懇願することになるが、それはまた後の話となる。

 


 この蟻地獄のようなやり方をみて、吉弘嬢の仲間たちは『えげつねえな。こいつ』と思ったが「相手が不死身でなかったら、もう少し手加減できたのですけど…」という言葉に『そこまでしないと止められない強さを持ったのが悪い』と、自分たちを納得させることにした。

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