第14話 お嬢様が欲しかったもの

 土の四天王を封印し、夜も更けたので、キャンピングカーで休む…と、見せかけて地下にシェルターを呼び出し、その中で勇者たちは休むことにした。

 これなら夜中に襲撃を受けても安全である。


 というのも

「あら?」

 スキルの調子が悪くなっていたためだ。

 どうやらスキルの力を供給している神様が力を使い果たして休憩を要求しているらしい。

「神様でも、やっぱり限界ってあるのですね」

 と、涼しい顔で言う吉弘嬢。

『当然だ!あれだけの力を調子に乗って使いおって!!!』

「あら、でも契約時に『この世界を私たち人間の力で救う代わりに私の私物なら『なんでも』取寄せられる力を与える』というのが、条件でしたわよね」

 と、契約を楯に無茶な要求をするクレーマーのような事を吉弘嬢は神に言った。

「まあ、良いですわ。その代り、休憩用のシェルターの取寄せと、あとお父様に電話だけはさせてくださいな」

 こいつ鬼か。と皆が思ったが、最終的な人選を間違えたのは神だし仕方ないよな。と思う事にした。


「あ、お父様?ええ、お話の通り瓦礫は撤去いたしました。これで、あの土地は使えますよね?ええ、必要な分のお金さえあれば十分ですので、作業代と土地の代金はアレと引き換えという事で、明日までにアレの調達と備品の確保をお願いします。それから…」


 と、なにやら親に向かってお願いをしている。

「ていうか、勇者様はあれだけの兵器をどうやって保持されて…いえ、何故持っているのですか?」

 ソーカが尋ねる。幾ら金持ちでもあれは一般人が持つ必要のないものだ。

 そんな質問に吉弘嬢は

「あれは、お父様と一緒にア●リカのダイヤモンド鉱山で抗争勢力と出会った時のお話で「あ、やっぱりいいです」」

「じゃあ、メキ●コの「やっぱり、いいですっつってんでしょ!!!!」」

 ネットで見た地球の暗部に触れそうなので必死に止めるソーカ。

 

 この様子では、明日に届くアレと言うのも碌なものではないのだろう。

 まあ、彼女を呼び出したおかげで魔王の牙城にたった2日で挑める位置まで来たのだが、本当にこれで良かったのだろうか?と思いつつ、ソーカは濁流の中の木の葉のような気持で寝る事にした。


 なおオスであるリグは囮のキャンピングカーで寝る事になったのだが、不平を漏らしたところ『大●湾の底で眠るのと、富●山の麓で寝るのとどちらが良いですか?』という吉弘嬢の問いに

「はい。ここで寝てお嬢様の囮という大役を務めさせていただきます!ナマ言ってマジすんませんでした!!!」

 と、快く答え、山の下から出ようとするエンジョウのうめき声を聞きながら眠ることになったのである。


  ※


 翌朝。

 キャンピングカーはボロボロになり、夜中に死闘を繰り広げたらしいリグと、鳥型の魔物が床に転がっていた。


 吉弘嬢は

「あ、神様?本日もご機嫌よろしゅうございます。今日は全力で魔王様をお退治致したいと思いますが、お力の方は回復されたでしょうか?」

 と、スキルの調子について尋ねる。

「え?ちょっと調子が悪いから休みたい?では、この世界は闇に包まれても仕方がないという事ですのね?ええ、でしたら私、魔王様と世界を山分けして人類を滅ぼす側に…」

「おい、なんか物騒な事を言ってるぞ」

「脅しじゃなくて本当に寝返りそうで怖いんだよな」

「あ、そうですか。はい。本日も世界平和の為によろしくお願いします。」

 下請けに無理難題を頼んだ元受が、同じくらい無理難題を押し付けられる構図で落ち着くところに落ち着いたようだ。

 とりあえず人類は滅亡の危機から脱せた事に喜びながら

「勇者様。今日は何を取寄せるのですか?」

 と、ソーカが尋ねる。

 すると、よくぞ聞いてくれました。と言いたげな、花も咲き乱れるような微笑みで吉弘嬢は

「前々からずっと欲しかったんですけど、お値段が高くて手が出なかったものです」

 と、年頃の少女らしい笑顔で言った。




 その横で


「俺の事は無視かい…」


 とぼろ雑巾のような何者かが恨み言を述べたような気がしたが、ぼろ雑巾がしゃべるわけがないので、誰もが聞こえないふりをした。

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