第15話 お嬢様 空を飛ぶ
「【私物取寄】」
まるで、誕生日プレゼントの箱を空ける子供のように目を輝かせて、吉弘嬢は新らしく所有した私物を取寄せる。
それは家屋のように大きく、キスミやアキツラは見た事もない物体だった。
「ついに、手に入れましたわ」
そこには垂直離着陸機、VTOLが姿を現していた。
お値段、約●●億円。
この世界で手に入れた貴金属と、彼女が手に入れた能力を利用して地球で請け負った仕事で、やっと入手価格に手が届いたという。
戦闘機は世代交代や価格変動が激しいので具体的な数値は書けない。
これを読んでいる読者諸兄の知っている最新鋭の機体を想定していただきたい。
さて、バカ話はここまでにして、異世界3人組はその見た事もない戦闘機の偉容にぽかんとしながら、珍し気にながめていた。
そんな彼女たちに吉弘嬢は誇らしげにスペックを説明し、マッハという異世界人では想像もつかない速さについて語るのであった。
ただ
「これなら、滑走路が無くても飛行できるし、ホバリング(空中で停止すること)も着陸もできますわ。さ、これで一気に魔王様を討伐にまいりましょう」
という新しいおもちゃを試したくて仕方ないような顔で語るお嬢様のお話を聞き、虎に翼、ナントカに刃物が与えられた事だけは理解できていた。
※
「すげえ!魔法で何度か空を飛んだことはあるけど、ここまで高く速く飛んだことはねぇぜ!!!」
「竜やワイバーンよりずっと速いですね!!!」
と魔法でリスに変化した賢者とホビットたちが興奮したように叫ぶ。
狭いコクピットに入るための変化だが、魔法で防御しているので耐Gや空気の薄さも問題はない。
「ほんとうに、これは軽快ですね。まさか空まで飛べるとは、さすが勇者様」
と、賢者が軽口をたたく。
それに気をよくしたお嬢様もほほえみながら
「ええ。初めてにしては、なかなかうまいものでしょう」
その言葉に機内が凍り付いた。
「「「 今 な ん と 」」」
それが何を意味するのか完全には理解できなかったが、ろくでもない宣言なのだけは今まで同行していた経験から理解できていた。
「今まで音速ジェット、特にVTOLは一度は運転してみたいと思ってたのですけど、なかなかお父様が許してくださらなかったのですが」
と、幼少の光景を懐かしそうに思い出し
「こちらに来る前、15歳の誕生日記念に練習機をプレゼントしてくださったんですの。運転方法はそれで練習していましたけれど、やっぱりこうやって実際に音速機の操縦管を握ると感慨深いものがありますわね」
などと、のたまった。
「「「………………」」」
オ ロ シ テ
逃げ場のない牢獄で、3人は声にならない声で『魔王退治の前に全滅しませんように。あと、人選はしっかり選べよ。お前』と神に祈るのだった。
(※単独での飛行機の運転はプロの指導の元、決まった練習飛行時間が必要です。けっして真似しないでください。)
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