第16話 かわいそうな魔王軍

「あ!あれが魔王城ですよ!」

 険しい山に囲まれた壮麗な城。それが魔王の拠点だと賢者ソーカは言った。

 彼女たちは、たった3日で最終舞台へ到着したことになる。

「げ!ドラゴンがあんなに」

 見ると大小50匹のドラゴンが、カラスやスズメの集団のように上空を飛んでいる。

 澄んだ青い碧玉や、光を浴びて輝く金剛石のごとき鱗は、伝説級の化け物らしく人間の刃など文字通り歯が立たないだろう。

 本気で攻め込まれれば国が滅ぶと言われた存在だ。


「魔王は本気で人類を攻めてないと言っていたのは本当だったのか…」

 あの50匹を超える群体のうち、3匹でも人類の国へ攻めてくれば王国は壊滅状態になっていただろう。


 人間では届かない天空を羽ばたく翼。

 巨体から発せられる長距離の炎。

 そして、上からのしかかるだけで「とりあえず、ミサイルで牽制しますわ」城がつぶれる巨『ズガーン!!!』『GYAOOOOO!!!!』「あ!3体くらい墜落した!!!」体。

 その鱗は頑丈で『左から近づいて来たぞ!』『ではバルカンで応戦しましょう』槍は通さず『DADADADA!!!!』「うるせー!!!」「でも翼に穴が開いたぞ!!!」、伝説の武器でないと傷一つ負『GYA!!!GYAAAAA!!!!AAAA!!!!』「すっげ、羽が見る見る内にバラバラだぁ」「今ので14匹は落ちたな」わない地上最強の生物なのである。

 もしもただの人間が遭遇すれば「あら?」「どうした?」出来ることはただ一つ。「弾が切れましたわ」「…それって剣が折れたり、矢が尽きたのと同じ意味か?」

「はい」死ぬ前のお祈りをするだけだ。

 その鋭い牙で噛まれれば、薄い装甲の戦闘機などひとたまりもないだろう。


「【スキル;私物転移!】これでミサイルと銃弾が補充されましたわ!それ!ミサイル発射!!!」「あ、また3体くらい落ちた」英雄と呼ばれた勇者も「バアアアアアルカン!!!!ですわー」「あ、鱗が粉々になっとる」「どれだけ威力があるんだよ。勇者様の世界の武器は」「これに比べたらこちらの世界の聖剣とかはカスやな」ドラゴンの一匹によって何人も命を落とした。「やりました!15匹も撃墜しましたわ!!!」「勇者様。すごいご機嫌ですね」「よっぽどほしかったんやなぁ」「ドラゴンさん、一方的過ぎてかわいそう…」

 そんな、存在なのである。


 ………だったはずなのに、なんでもう全滅しかかっているんだよおい。と賢者は思った。

 というか、賢いヒロインとは何なのだろうか?

「金銭をやりくりして、思い切って買ってよかったですわ。私の選択は間違っていませんでしたわね」

 と、吉弘嬢は上機嫌で言った。


 それはまるで、町内会の運動会に世界一流のアスリートを招聘すれば勝てるのは当たり前なのだから、そうするのが最善手ですよね?と言わんばかりの『正しいのだけど、何か違う』回答だった。


  ※


 このVTOLに搭載されているのはバルカンとミサイル。

 生物の装甲など紙粘土や豆腐に等しく、最凶と恐れられたドラゴンたちはぼろ雑巾のように穴だらけとなって墜落していく。

「すばらしい威力ですわ」

 と、マシンガンなど比較にならない兵器を振りかざしてお嬢様は必死に逃げようとしているドラゴンをロックオンし、無慈悲にトリガーを引く。

 これ一体だけで勇者を倒せるだけの力を持つ存在だったはずなのに、ドラゴンは断末魔の悲鳴を上げて、また一匹墜落されていく。

 まさに、一当千。

 マシンガンやミサイルは無くなっても、私物取り寄せで幾らでも補充可能。

 燃料さえも無限給油可能と言う、チート兵器になっていた。


「これを吉弘流護身術 その8に加えましょう」

 と、吉弘嬢は満足げに言った。

「……8番目に戦闘機による射撃が来る護身術なんて普通ありませんよ」

 と、フランス語で書かれたマニュアルを読みながら、諦めた声で賢者が言う。

「あら」

 と、意外そうな顔でお嬢様は


「護身術と言うのは絶えず進歩するものですのよ?」


 と、おっしゃられた。

「たとえ進歩しても戦闘機で護身する未来なんて、来ねえよ」


 そんな馬鹿話をしていると、ついに最終目的地、魔王の城の上空に到着した。

 圧倒的な力を誇る吉弘嬢に、魔王はいかにして立ち向かうのか?


 次回『ラストファイト。大勝利。希望の明日へ、レディ☆ゴー!』にご期待ください。

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