第17話 ヒロインが知力と資本力で魔王と王をひねりつぶす話
ついに魔王城の守護者であるドラゴンを追い払ったお嬢様。
そして、
「じゃまなトカゲさんもお消えになりましたし、とりあえず魔王様の本拠地に1000発ほど銃弾をおブチ込みあそばしときましょうかしら?」
と、ヤクザのような挨拶を提案し、チャイム代わりに銃撃をするお嬢様。
『こいつを敵に回さなくて本当に良かった』
と最後まで同行した3人は思いながら、凶悪な威力の銃弾が『おブチ込まれる』魔王城に同情して両手を合わせるのだった。
思えば、ここに至るまで苦労の連続だった。
ゴブリンがトラックに追い回され必死の顔でこちらを向いているのをみたり。
洞窟に籠っていたレッドキャップたちが戦う前から出口を封鎖され、必死になって扉を叩いている音を聞いたり。
無敵の防禦を誇る四天王に様々な攻撃を為した挙句、山の下敷きにしてみたり…
「うちら、たぶん死んだら地獄行きやな」
「ただ虐殺未遂を見てるだけとはいえ、なんかものすごい罪悪感感じますもんね」
「魔王を退治して英雄譚として語られればよいなと思ったけど、グロテスクすぎて一般の方にはお聞かせできなくなってもうたな」
と、隣にいる悪魔の非道を思い出しながら、げんなりとする。
大して戦ってもいないのに、ここまで疲れる旅と言うのは初めてであった。
だが、それもこれで終わりである。
あとはかわいそうな魔王さんが倒されたら、勇者による魔物たちへの一方的な虐待未遂は終わるだろう。
そうすれば、殺生の日々ともお別れである。
その後は、犠牲となった魔王さんのお墓でも立てて、毎日その冥福を祈ろう。
そう思っていると
「あら?」
戦闘機から放たれた銃弾は、城の城壁を削り柱を破壊する……はずだった。
だが凶弾は城のすぐそばで、はじき飛ばされた。
「結界ですかね?」
「どうかしら?【私物取寄】」
試しに、廃ビルを一棟取寄せて、上から落としてみるときれいに球形の壁にぶつかったように砕け、魔王城を取り囲む山々へ落ちて行った。
「これは、何もかもはじき返すものなのかしら?」
気になったお嬢様は、こんなこともあろうかと用意していたトランシーバーに向かって事情を説明し、「これから魔王城の上空に落としますので5秒でお仕度をなさってください」
といってスキル【私物取寄;四天王さん】をつかうと、疾風のリグが戦闘機の真横に現れて
「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
トランシーバーを持ったまま、落ちた。
自由落下をするリグは、そのまま落下し「ぱらしゅーと?ぱらしゅーとってなんだ?え?紐を引っ張れ、うわ!何だこりゃ!!ぐえっ!!!」
と、ギリギリのところでパラシュートを利用でき、結界の表面に激突し、
「え?」
突如消えた結界から落ちて、魔王の城に着地した。
「どうやら、魔王様が任意で結界を張られているようですわね」
「あー、だから使者としてリグっちを落としたんか」
「出発前になんか変な服を渡していると思ったら、こういうことか」
昨日の掌がえしは許せなかったが、ちょっとだけ四天王に同情する三人だった。
※
『はっはっは』
10分後、トランシーバーから笑い声が聞こえる。
城の主である魔王の声だ。
『離れていても魔力もなしに言葉が通じるとは、勇者の世界は面白いものを作るものだな』
どうやらリグは魔王に無事、トランシーバーを渡せたようだ。
「ええ、私の元居た世界は色々と便利な道具がございますの。さきほどの空を飛ぶトカゲさんたちを倒す武器から、このように会話する道具まで色々と」
工業生産の確立されていないこちらの世界では想像もつかないほどの物量と、犠牲の上に成り立った技術が、吉弘嬢が来た世界にはある。
「そこで、一つご提案があるのですが」
『降伏しろと言うのならお断りだ』
吉弘嬢の言葉を先読みして、魔王は言った。
『確かに、貴様の力は脅威だ。貴様を相手にしては勝てないだろう」
だが、と魔王は前置きし
「逆に言えば、貴様のいない場所では人間も勝てまい。予は神の切り札を見るために戦力を温存していたが、さすがの貴様もこの城の障壁は破れなかったようだな!』
RPGの定番。4つか6つくらいのアイテムを揃えないと先に進めないバリアが、魔王の城には張られていたのである。
「この中にいる限り、貴様は予に傷一つ負わせることはできるまい!そして、ここで貴様が立ち往生している間に、残った四天王が人類を攻め滅ぼしていくのだ」
いくら勇者が強くても、その力は中距離までに限定される。
仮に人間の城に戻ったとしても雲霞の如く襲い掛かる指揮者もいない魔物の群れ、とずっと戦う事はできないだろう。と、魔王は勇者の戦い方を分析して、言った。
それを聞いてキスミたちは、
「あーあ。やっぱり、そう簡単に魔王はくたばらないか」
「地道に冒険をするしかないようですね」
と、時間はかかるけど、その雲霞のような魔物を撲滅出来る事を、少しも疑わずに言った。
幾ら魔王が強くても、どれだけ障壁が頑丈でも、この
彼女はこちらの予想の遥か上をいく。という確信があった。
そして、それを肯定するように
「あら。そんなダラダラ引き延ばすようなお話、私お嫌いでしてよ」
空気を読まないお嬢様はそういうと、魔王城の上でブースターを下に向ける。
垂直離着陸機の名に恥じず、VTOLは地面に向けて火を噴き、空高く上昇してから吉弘嬢は
「では、その障壁がどれだけ頑丈か試して見ましょう」
と、天使のような笑顔で、悪魔も真っ青な作戦を開始した。
「へ?」
その瞬間、VTOLの下から解体予定の50階立てビルが8つ、流れ星のように現れて落下する。
『ぐおおおおおおおおお!!!!!!!』
1600トン以上の衝撃が魔王の障壁をおそう。
まさに山のごとき大型物件が障壁を直撃し、その衝撃でビルは自壊して砕けた瓦礫がさらに障壁を乱打する。
それは全て、魔法で壁を維持する魔王への負荷となった。
壁にぶつかったビルは亀裂が入り、細かく割れて多段攻撃のように砕けて障壁を叩いていくが、障壁は何とか持ちこたえた。
『ま、負けてたまるかぁあああああああ!!!!!!!』
という叫びがトランシーバーより響く。
「あらあら、さすがは投資目的のためだけに作られたドアの存在しない●国産の投資ビルですわ。気持ちよく壊れますわね」
と、いろいろやばい感想をつぶやきながらお嬢様は下を見る。
『……はっはっは!どうだ!貴様の能力もこの城には無りょk…』
「では、お次はこれですわ」
精一杯の虚勢を張る魔王に無慈悲な言葉が告げられる。
『やめろおおおおぉぉぉぉ!!!!!!』
パンケーキ(放射能廃棄物在中マーク)の書かれたドラム缶が1万個。
爆雷のように召還される。
なおドラム缶に詰められた『保管体』と呼ばれる容器には、焼却灰保管体が200~300kg。コンクリートで固めた高線量圧縮体保管体は2トン~3トンある。
彼女が先日父親に頼んだのは、地球上の保管体を処理する代わりに、その処分代でVTOLを購入したい。というものだった。
目的の為なら手段は選ばないにしても、もう少しヒロインとしてマイルドな手段を選んでほしいものである。
ついでに、それだけだと足りないので、殺虫剤を作る大工場の廃液で『原液がもしもこぼれたら、一つの町が住めなくなる』というヤバいブツも混じっていたが、世界を救うと言う崇高な目的の為なら、手段を選ばなかった。
一応、彼女にも良心と言うか、この世界への被害は最小限に抑えたいと言う気持ちはあったので
「【スキル;私物召喚;廃棄船】」
とスクラップになる予定の大型廃船が50隻。
有害物質に蓋をするように覆いかぶさる。
その朽ちた船体を見て、ソーカたちは吉弘嬢に問う。
「なあ、勇者様。もしかしてこの空飛ぶ道具って…」
「世界中の処分に困った物件の処理を請け負ったお金で購入した逸品ですの」
と、吉弘嬢はこともなげにいう
『「「「魔王城は産業廃棄物処分城じゃない!!!」」」』
お嬢様のお仲間と魔王は、ぴったりのタイミングでお嬢様に抗議した。
「なんつーことしてくれとんじゃ!てめぇ!」
「よくわかんねーけど、あれ不法投棄したらだめな奴だろ!!よくわかんねーけど!!」
「だからこうやって、気休めに廃棄船で蓋をするんじゃありませんか」
『「「気休めじゃなくて、厳重に管理しろよ!!!」」』
「海中に不法投棄するロ●●でも、もう少し気を使いますよ!!!」
みんなから抗議を受けたがお嬢様は構わず、
「はやく降参しませんと、次はもっと別の危険物を投下しますわよ」
とさわやかな笑顔で脅迫した。
※
「………………終わりましたね。色んな意味で」
賢者がつぶやく。
かつて人類の敵の本拠として機能していた魔王城。
それは、瓦礫に覆われた上、科学的に汚染された毒物や放射能汚染物が入ったドラム缶をコーティングした死の湖の下になり、姿が見えなくなっていた。
おそらくバリアの上に載った廃棄物と水の重量は数億tクラスになっているだろうが、城は無事である。
「すげー。魔王の障壁って頑丈なんだな」
感心したように、ホビットがいう。
『あ、あたりまえであろう。我が魔力を込めた障壁。そう簡単に破れてたまるものか』
と、虚勢を張りながら魔王はいう。
「あら、でしたらさらにもう一つ、今度は夢の島でも投下しましょうか?」
『すいません。ちょっと虚勢張りました。もうこれ以上は勘弁してください』
ついに魔王は泣き言を言った。
「勇者殿、ひとつ気になったのですが」
ソーカが問う。
「なんですの?」
「この状態で、障壁を破ったらどうなるのでしょう?」
今は物理法則を無視したかのような、デタラメな魔王の障壁があるから城は保たれている。
だが、それが消えれば瓦礫と化したビルや廃船に科学的にヤバい水が城にあふれ込んでくるのではないだろうか?
その状態で魔王…いや、魔物たちは無事なのだろうか?
敵ながら、心配になるような惨状を想定し、たまらず訊ねた賢者に対し、お嬢様は
「どうなると、思います?」
と、可愛らしい声で笑った。
『…………………』
「…………………」
「…………………」
「…………………」
『………お願いします。世界はもうどうでも良いので、助けてください』
魔王は、威厳をかなぐり捨てて懇願した。
「はい。それでは私の勝ちですわね」
こうして吉弘嬢は当初の予定通り、魔王から降伏の言葉を引き出し、平和裏に勝利したのであった。
この早期降伏のおかげでサイキ国の洞窟に閉じ込められたゴブリンやレッドキャップは脱水症状による死亡寸前で助かった。
リグも一応命は取りとめているし、出番のなかった四天王2体はひどい目に合うことなく平和を享受できることになったのである。
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