第12話 四天王でも最強と最弱

「斥候の話では、勇者たちは南東の山谷を直進してきているそうです!」

 魔王軍は姿を見失った勇者たちを必死で探していたが、鳥方の魔族の報告でやっと位置を理解できた。

「あの険しい谷地を?勇者は羽でも生えているのか?」

「いえ、報告によれば谷に石を埋めて進んでいるようです」

「なるほど。土魔法の使い手か」

 間違った認識だが、魔王軍たちは、それで納得した。

「道なき道も土を自由に操れれば、移動は可能か」

「砦の前の土砂も土魔法によるものだろう」


 砦に積まれた生ごみ類は無視して魔王軍の参謀はそう結論付けた。

 そして


「だとすれば、空からの攻撃にはひとたまりもあるまい」

 土魔法は地面を動かしたり、ストーンバレット(石の弾丸)と呼ばれる石つぶての攻撃は得意だが、空からの攻撃に弱い。

 それがこの世界では常識だった。なので

「鳥型魔族の一団を編成しろ!上空から投石を繰り返し、行動不能になるまで攻撃を続けるのだ!」

 と、高高度ならではの攻撃方法を命じた。


  ※


「大変です!先ほど送った部隊が壊滅しました」

 その報告が返ってきたのは3時間後だった。

「なんだとぉ!!!!」

 空を飛べると言っても大型生物なのでその高度には限界がある。

 100~200mの高さでは、残念ながら、地球の戦場にでもある高射砲の良い的にしかならなかったのだ。

 

 そんなことを知らない参謀たちは、どのような大魔術師がやって来たのか予想もつかず、慌てまくっていた。

 だがそこへ

 

「慌てるでない」


 地の底から響くような声が聞こえる。

 そこには、全身を強固な鎧で覆われた男がいた。

「エンジョウ様…」

 土のエンジョウと言われる、四天王でも最も防御力に優れた怪物は、身の丈ほどもある大斧を手にすると

「ここは私が直々に出る。ワイバーンを一騎を用意しろ」

 と言った。


  ※


 勇者たち一行がその化け物を見つけたのは昼頃の事だった。

 重い鎧を響かせ悠然と歩いてくる魔族。

「……あれはもしかして」

 その異様な姿を認めると、ソーカは

「逃げましょう!」

 と、言った。

「どうしたんですの?」

 いつもより慌てるソーカを見て吉弘嬢は尋ねると

「あれは四天王の一人、土のエンジョウ。またの名を不死身のエンジョウという化け物です!!」

 その言葉に

「あれが、あのオキダ国をたった一体で滅ぼしたという化け物か!」

 とアキツラが警戒しながら後ずさる。

「あれに目をつけられたという事は、奴らも本気だって事か」

 と、キスミも警戒態勢に入る。

 それは魔王が現れた時に匹敵するレベルの緊張感だった。


「なるほど。有名な方なのですのね」


 そんな緊張感をぶち壊すように、のほほんとした声で吉弘嬢は感想を述べた。

「ああ、重装騎兵の突撃にもびくともしない。500人で構成された騎士団の攻撃を受けても傷一つ負わず、逆に騎士団を全滅させた。城の城壁を破壊してたった一人で国を壊滅させた。武勇伝には事欠かない奴だよ」

 そう話していると、目の前の化け物は3mはある斧を振りかぶり、吉弘嬢めがけて投げつけた。

「危ない!!!」

 アキツラが吉弘嬢を抱えて横に飛ぶ。

 すると、その後ろに置かれていたウニモグを斧は両断していった。

 どうやら、逃げるための足を潰したのだろう。


「あらあら。すごい力持ちさんなんですね」

 感心したように言う吉弘嬢。

「そんな事言っている場合かよ!さっさと逃げるか戦うか」

 決めてくれ、と言う間もなく吉弘嬢は戦闘態勢に入っていた。


 だが、

「まあ、ここは平和的にお話あいで解決できないか試してみましょう」

 そういうと

「【私物取寄;四天王さん】」

 といった。

「あ、あれ?ここはどこだ?」

 先日、命惜しさについ服従を誓ってしまった魔族の四天王、疾風のリグがいた。

「おーい、リグやん」

「あ?なんだホビット?殺されたいのか?」

 気さくに呼びかけるキスミにガラの悪い言葉で答える。

「あの、四天王さん。そういう言葉はよろしくないですよ」

「あ!これはお嬢様!如何されましたでしょうか!?」

 吉弘嬢の言葉に、リグは先ほどとは打って変わった様子で跪き、頭を垂れて平伏する。

 その姿はさながら、少しでも機嫌を損ねたら処刑される暴君に仕える従者のようだった。

「いえ、あちらにご同僚の方がいらっしゃるようなので、降伏するように説得していただけないかと思いまして」

 と、エンジョウを指さす。

「あ、エンジョウじゃねえか!」

 と四天王の一人は、仲間の存在を認識すると、一瞬で同僚の元に移動する。

「ぬ?リグか」

「いやー。助かったぜ、あんたがいるなら勝ったも同然だ」

 なれなれしく、肩に手を回し、勇者たちを指さす。すると

「何故貴様がここにいる?それに『助かった』とはどういう意味だ?」

 と、聞かれてリグが固まる。

「………え、ええと」

 冷や汗をダラダラ流しながら

「…いや、実は勇者たちの情報を探るために服従したふりをしていたんだけどよぉ。まあ、おめえが来てくれたんならその必要もないな。まあ、あの真ん中の女が勇者で、他は賢者にシーフに戦士だ。勇者以外はそう脅威じゃねえ」

 露骨に話題をそらしながら、『後は頼んだぜ』と言おうとしたら、リグはエンジョウから襟首をつかまれた。

「つまり、勝手に抜け駆けした挙句、勝てないから服従し、我を見てまた寝返りなおした。というわけか」

「え?ま、まさかあ。俺はエンジョウさんに花を持たせてやろうと思って潜入を」

「貴様にそんな器用な真似ができるわけがあるか」

 その言葉に、キスミたちはうんうんとうなずく。

「魔族の面汚しめ、地獄で反省しておれ」

 虫けらでも見るような目で、エンジョウはリグを高々と持ち上げる。

「え?え?」

「死ね」

 その言葉とともに、地面に頭ごと叩きつけられ、爆音がする。

「リグ!!!」

「四天王ー!!!」

 まるで砲弾が着弾したような威力に、キスミたちは死を確信したが


「痛ってー!!!」

 真後ろで、気の抜けた声がする。

 直撃する前に吉弘嬢が【私物取寄】で救い出したのだ。


「ぬう」

 リグが手元から消えたのを見て、エンジョウは吉弘嬢を初めてただ者ではないと判断する。

「みなさん。下がってください」

 それは吉弘嬢も同じだったようで、仲間を下がらせる。


 たった一体を除いて。


「痛ててて、あ、お嬢様申し訳ありません。説得には失敗しました」

 悪びれもせず、掌を帰したリグに、吉弘嬢はにっこり笑って言った。

「『あなたが』生き残っていたら、あとでお話があります」

「ヒィッ!!!!!」

 リグは先ほどよりも大きな悲鳴を上げた。

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